部下に任せることができず、細かいことまで指示し、確認しないと気が済まない。そんな“過干渉上司”にはどう対応すればいいのか。産業医の井上智介さんは「過干渉上司には2つのタイプがいる。どちらも部下の成長を阻害するので、気を付けないと、部下はいつの間にか『使えない人材』になってしまう」という――。
背後に立つ2人の男性上司に急かされながら仕事をする女性
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任せることが苦手で口を出してしまう

ほかの作業に集中していても、別の仕事の細かい指示を矢継ぎ早に飛ばしてくる。「さっき頼んだ仕事はやった?」「午後の打ち合わせの準備はしてる?」と、しょっちゅう確認してくる。「そんなことまで!」と思うほど細かい手順まで指示してきて、その通りにやらせないと気が済まない。電話のかけ方やメールの文面など、細かいことまで口出ししてくる……。

こうした過干渉な上司に悩む部下は、どの会社にもいます。

過干渉な上司は、部下に対してとても細かいことまで管理しようとし、「任せる」ことが苦手です。こうしたやり方は、マイクロマネジメントとも呼ばれます。

おせっかいタイプと人が信じられないタイプ

過干渉の上司には、大きく2つのタイプの人がいます。

一つは「自分の考えは常に正しい」と思っているタイプです。基本的には、よかれと思って、おせっかいな言動をする人です。相手に迷惑をかけているとは、つゆとも思っていないのがやっかいです。

こういう人は、「仕事はこういうやり方がいい」「あの人の言うことは聞かないほうがいい」など、いろいろな場面で口を出してきます。とにかく自分のやり方が絶対に正しいと思っているゆえの言動なのです。

もう一つは、失敗に対する不安が大きく、人のことを信じられないタイプです。部下の失敗を自分の失敗とみなされることがいやで、部下のやることなすこと全部把握しておきたい。だからこそ過干渉になるのです。

こういう上司は、部下の仕事の進捗しんちょく具合を細かく確認してきますし、「このコストの算出根拠は合ってるの?」「先方の○○さんだけに連絡しているようだけど、△△さんや□□さんにも本当に伝わっているの?」など、細かいことまで疑心暗鬼になって聞いてきます。部下にしてみたら、まったく信用されていないのが伝わりモチベーションが下がりますし、確認に時間を取られるのでうんざりしてしまいます。

ほかの人を「言い訳」に使ってかわす

こういうタイプの人が上司の場合、部下はどうすればよいのでしょうか。

一つ目の自分が正しいと信じているタイプに対しては、つまりは「悪気のないおせっかいへの対処法」を考えていくことになります。ただ、上司と部下という関係上、「黙っていてください」とは言いにくいですし、適当に流すしかないところがあります。「はい」「はい」と、表面上は聞いたふりをしながら、すべて上司のアドバイス通りにはぜず、適当に受け流す。

ただ、これも行き過ぎると仕事の評価を下げられたりと、問題になってしまいます。何か「言い訳」を用意しておく必要があるでしょう。

例えば、仕事のやり方であれば、「おっしゃる通りやってみたら、確かに途中まではうまくいったのですが、途中でうまくいかなくなってしまいました。そこから先は、ちょうど○○さんからいいアドバイスをいただいたので、その通りやってみました」など、誰かほかの人を理由に持ち出すといいでしょう。「私は、言われた通りやろうと思ったのですが、○○さんに『このやり方でやってほしい』と言われて、仕方なくその通りやりました」など、自分の判断ではなく「人のせい」にするのがポイントです。

このタイプの上司は、悪気はありませんが、自分の考えに自信を持っているので、結果的にその通りにはしなかったとしても、「言われた通りやろうとした」「言われたやり方は素晴らしいと思った」など、その上司の自尊心を傷つけないような一言を加えることをお勧めします。

報・連・相を使って「不安」をコントロール

一方、失敗に対する不安が大きいタイプの上司は、プレーヤーとしては優秀なのかもしれなせんが、そもそも部下に任せる、部下を認めるといった、マネジメントの基本ができていません。こういう場合は、部下の方から報・連・相を密にしていくしかないでしょう。

報・連・相の回数を増やすのが面倒な場合は「この件に関しては、明日の3時に報告します」など、報告のタイミングを予告しておけば、上司の側は「明日の3時に報告してくるのなら待とうか」と思えます。

定期的に報・連・相をするタイミングを決めておくのもいいでしょう。たとえば「毎週水曜日の3時に進捗を報告する」などです。あらかじめ決めておけば、いちいち連絡せずにすみます。

上司にしてみれば、進捗がわからないことが不安なわけですから、その不安をコントロールするのです。早いタイミングで報・連・相すること、そのタイミングを予告したり、あらかじめ決めておくことで、不安をコントロールします。

付箋で覆われたノートパソコン
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過干渉は部下の成長を止めてしまう

上司の過干渉が続くことの一番の問題点は、部下の成長が止まってしまうことです。

過干渉の上司はもともと、「部下に任せることで失敗したくない、傷つきたくない」「本当は部下に任せるよりも、全部自分がやったほうが早いしいい仕事ができる」と思っている人が多く、プレーヤー気質が抜けていません。

すると、当然ながら部下の成長を阻害します。上司が細かい指示や確認をしてくるのは、部下の方は、最初のうちは面倒でうんざりするかもしれませんが、自分でやり方を考えなくていいので、言われた通りにすることが楽になってきます。この状態に慣れてくると、部下の側は、自分の成長が止まっていることに気づけません。

さらに、こういったプレーヤー気質が抜けない過干渉上司は、プレーヤーとして優秀な人も多いので、言われた通りにやっていれば、仕事の成果が上がってしまうことも多い。結局、過干渉な上司のペースにのみ込まれて、気づいたら自分一人では仕事ができず、いざ転職しようにも、どこにも通用しない「使えない人材」になってしまう恐れがあります。

過干渉上司は再生産する

また過干渉上司の下についた部下は、マネジメントの仕方を学べないので、自分が部下を持ったときに、また同じような過干渉上司になる可能性もあるのもこわいところです。過干渉上司は、過干渉上司を再生産してしまうのです。

こうした上司は、「これまで自分がやってきたやり方」を部下に踏襲させようとするので、もし効率が悪く、ムダの多いやり方があってもそのままになってしまいます。結局、古いやり方が変えられません。

会社にとっては、部下を育てないうえに、新しいやり方やアイデアが生まれなくなるので、成長を阻害する存在でしかなく、致命的です。過干渉上司が多い会社は、成長性がない会社になってしまいます。

最近の若い人たちは、SNSなどでほかの人との差を可視化されることが多いせいか、何かと「成長」を求める傾向があります。「仕事を通して自分はどう成長できるか」「そのチャンスが今の会社にあるのか」を考えている人が多いのです。そこをくみ取らないと、会社は優秀な若い人たちをとどめておくことができません。優秀な人ほど、過干渉上司が多い「変わろうとしない会社」には不信感を抱き、いずれ離れてしまうでしょう。

過干渉上司に慣れてしまうと危ない

部下の方は、上司が過干渉のタイプと気づいたら「この上司は過干渉で嫌だな」と思う感覚を大切にしてください。ここでお伝えしたような方法で、上司の過干渉を積極的にコントロールし、うまくかわすことが、自分のためにもなります。業務に問題が生じているようなら、上司の上司に相談することも考えておきましょう。

なかなか難しいかもしれませんが、もし自分が上司の立場で「過干渉になっているな」と気付いたら、マネジメントの資質を問われる重要なところだと自覚し、部下を信じて「任せる」ことから始めてみてください。

上司がいつまでもプレーヤー気質でいると、部下が成長できません。だからこそ、上司は部下に任せて、失敗したときにはフォローするというスタンスをとる。それを意識しておかないと、知らず知らずのうちに自分が過干渉上司になってしまいます。