IKEAやニトリに代表される低価格帯家具の台頭。一方で生産者とつながり、信頼を築いてきた大塚家具は「中価格帯」を得意とする。量産される安さ礼賛ではない、ものづくりと豊かな生活のバランスを、大塚久美子社長に聞くインタビュー後編です。


【前編】を読み逃した方はこちらから ■大塚家具・大塚久美子社長に聞く――何故「会員制」を今、やめたのか http://woman.president.jp/articles/-/861

良い家具をどこよりも安く

「大塚家具=高級家具」といったイメージを持つ人が多いが、実は中価格帯が主力商品だ。店舗をじっくり回ってみると、確かにコストパフォーマンスの高いオリジナル商品やさまざまなインテリア雑貨も多く、価格レンジが広い。広大なショールームならではの豊富な品数も特長で、「大塚家具=家具のデパート」といったほうが適切だろう。こうした自社の実像を広め、品質と価格がこなれた中価格帯の家具をもっと多くの消費者に選んでほしいと話す久美子社長に、その真意を訊ねる。

――「大塚家具=高級家具」のイメージはなぜ広まったのでしょうか。

「大塚家具=高級家具」といったイメージは2000年以降に広まったと考えています。90年代後半から、取り扱う商品が飛躍的に増え、いわゆる名品やブランド家具も多く扱うようになりました。どんな企業もそうですが、新商品は優先的に宣伝しますよね。弊社も広告で大きく宣伝しました。

大塚家具 大塚久美子代表取締役社長

一方で、気軽にお店に入ってあれこれ部屋づくりのイメージを膨らますことができる、低価格帯のチェーン店が出てきた。自分好みの部屋づくりへの興味も高まり始めた頃で、そうした業態は、今日は買わないけれどちょっと見たい、今日は小さな雑貨を買うだけ、といった消費者のニーズをとらえました。

そうした中で、かつて成功をもたらした弊社の会員制システムが壁となりました。実物を見てよく検討したいけれど「見るだけでは行きづらい」とショールーミングを躊躇(ちゅうちょ)される方が多かった。ですから、広告で宣伝したような高価な商品ばかりのお店、というイメージが一人歩きするようになったのだろうと思っています。

本当は高価な商品だけでなく、多くの方の手が届く価格の良質な家具を提供していましたし、現在も価格に自信があります。「全てのお客様に、価値あるものを魅力的な価格で」が弊社の方針で、最低価格保証も行っています。むしろ、良い家具なら弊社はどこよりも「安い」んです。

――大塚家具は中長期計画で、中価格帯へ顧客を呼び戻すという目標を掲げています。しかし、低価格チェーンの出現によって、消費者は、そこそこの品質でデザイン性の高い安価な家具、という選択肢を手に入れました。ファッション業界でも同じ流れがあります。ファストファッションかラグジュアリーブランドか。極端な2択がクローズアップされ、事実、中価格帯のメーカーやブランドは苦戦しています。家具での中価格帯はどう戦っていきますか。

昔も今も中価格帯が弊社の売り上げの8割を占めていますが、近年、部屋づくりへの関心がとても高まっていますので、さらに多くの顧客を獲得できると考えています。

生活に欠かせない衣食住のうち、住まい環境だけは毎日変えることができません。食べ物なら、今日はファストフード、明日は三ツ星レストラン、明後日は母の味とさまざまな選択があります。服も同じで、今日はカジュアルだけど明日は行事があるからフォーマルで、といった選択が可能です。TPOに合わせたからといって、その人の根幹に関わることではありません。

けれども、よほどの富豪でもない限り、家具やインテリアは一つしか選べませんよね。そうなると極端な2択はしにくいのではないでしょうか。毎日同じ椅子に座り、毎日同じテーブルを使う。住まい環境は、その人の本質的な生活のあり方を反映します。つまり、その人自身の生活の基盤で、根幹に関わるものです。

人は、住まい環境のフィードバックを受けながら生きていると思います。「座り心地はそんなに良くないけれど、とりあえず座れればいいや」となんとなく選んだ家具と、古典的な名作とされる家具は、やはり大きく異なります。名作家具は誰が見ても美しいと感じる佇まいがあり、生き残るにふさわしい意味がある。

名作家具でなくても、きちんとした工房で丁寧に作られたものは使い心地が良いものです。そんな家具のある住まい環境は、日々にほのかなワクワクや安心感を与えますから、価格に見合う価値があると思います。

また、家具は捨てるにしても費用がかかる場合が多いですよね。なんとなく買った家具にすぐ飽きたり、使い心地が悪かったりすれば、費用をかけて捨てることになります。手間とお金がかかるうえ、エコじゃない。我慢して使い続ければ、毎日不満を抱えて暮らすことになる。その点に気づき、居心地が良く、自分らしい住まい環境を整えたいと考える方が今、増えているのではないでしょうか。

ほんの少し頑張れば、手が届く良質な家具が揃っているなら選択肢に入れる、というお客様にぜひ弊社を念頭に置いていただきたい。従来の会員制システムで選択肢から除外されるなら、本意ではありません。それは消費者が持つべき選択肢を狭めることにつながります。

私どもは、お客様が幸せになる家具をご提案し、ご提供したい。お客様の日々の暮らしを豊かにする住まい環境づくりのお手伝いをしたい。

ですから、まずは「手が届く価格の良質な家具を豊富に取り揃えています。どうぞお気軽にご覧になってみてください」と申し上げたいです。品質には自信がありますし、価格もご納得いただけると思います。これからの時代、住まい環境においては、良質な中価格帯家具をお選びになるお客様が増えるはず。弊社がその受け皿になりたいと思っています。

――さまざまなテイストの家具が揃っているのも大塚家具の強みですね。

家具という商品の特質と思いますが、その場で商品をお持ち帰りにならないショールーム方式は、お店に在庫を抱えずに済み、多くの商品を置くことができます。それは、小売でありながらショールームという形式ゆえに、都心であっても広大な面積で展開できるという、独自の業態が理由でもあるのですが。

いろんなテイストの家具があって個性がない、という見方があるかもしれません。しかし、何かに特化したワンテイストショップにはない、豊富な品揃えこそが弊社の個性と考えています。こんな家具が欲しいという方にも、どんな部屋にしたいかまだ決めていないという方にもお応えできます。

――2015年秋から冬にかけての「生まれ変わるための全館全品売りつくし」は、さらにチャレンジを仕掛ける予定の来年に向けた施策ですね。たとえば先ほど、家具を捨てるのはエコではない、とおっしゃいましたが、リセール市場なども視野に入れていますか。また、インバウンド需要に力を入れていく予定はありますか。

そうですね。すでに家具の買い取りとリユース事業を進めています。好みが変わることはあるでしょうし、1人暮らしと家族のいる暮らしでは、心地よい住まい環境も異なります。気に入っている家具であっても、不要になる場合があるでしょう。下取りは、捨てなくても手放せる方法として喜ばれます。また、良い家具が欲しいけれど、新品は手が出ない若い方などに「中古の良い家具を選ぶ」機会をご提供したいです。

中古市場が確立されれば、レンタル市場も拡大できると思います。中古やレンタルが一般的になると、家具と人との関係がもっと多様になる。それぞれの人にとって最適な方法で家具を選べる土壌を耕したいです。

インバウンド需要についても注力しています。特に中国のお客様の“爆買い”は家具にも及んでいて、日本で不動産を買われた方などがお買い求めになられます。家具の売買にはいろいろ制約がありますから、海外での店舗展開はまだ現実的ではありませんが、それもいずれ視野に入れてまいりたいと思います。

加えて、若手デザイナーや新しい才能とのコラボレーションもどんどん手掛けていきます。

――家業である家具という商品。社長ご自身は家具とどう付き合って暮らしていますか。

生まれた時から家具に囲まれていましたから、やはり、家具が好きです。カタチから入る、という言い方がありますが、自宅では座り心地もデザインも気に入っている椅子に座ってリラックスタイムを過ごすようにしています。ぐっすり眠れるベッドを見つけたので、それもとても気に入っています。睡眠は大事ですからね。

最近はかなり忙しいですが、好きな家具に囲まれながら好きな海外ドラマを観るのが、ささやかな日々の休息。毎日良いフィードバックを得られる住まい環境を、私ももっと整えていきたいです。


 ■感銘を受けた本 
かなり読書をするので1冊を挙げるのは難しいですね。常時10冊程度併読しているんです。ベッドサイドにも積み重なっています(笑)

 ■モチベーションをあげるもの 
質の良い睡眠! キングスダウン社のマットレスシリーズ「レガリア」は快眠にお薦めです。

 ■癒すもの 
羽毛布団です。眠るモノばかりですね(笑)

 ■お気に入りのおやつ 
和菓子、洋菓子どちらも好きなので、これ、と言えないのですが、執務室には常に甘いものがあります。


大塚久美子(おおつか・くみこ)
株式会社大塚家具 代表取締役社長。1968年、埼玉県生まれ。一橋大学経済学部卒。富士銀行(現みずほフィナンシャルグループ)勤務を経て、1994年大塚家具入社。1996年取締役を経て、2009年社長に就任。2014年7月社長解任。2015年1月社長に復帰。