“自己中心的”だからできるさまざまなこと
「音楽家はみんなそうだと思うけど、僕は“自己中”なんです。相手が喜ぶことがしたいんです。それが自分にも返ってくるから」
おや、と思わされる言葉だが、それが指揮者、飯森範親氏のスタンスだ。かねてより「音楽家はサービス業」と公言し、観客の心をつかむための仕掛けを次々と企画、実践。映画『のだめカンタービレ』や『おくりびと』への参加やテレビ番組出演なども含め、クラシック音楽のファン層拡大に尽力している。
現在、音楽監督としてかかわる山形交響楽団の、年間観客動員数の大幅な増加や山形の街おこしとも連携した活動は、当時音楽業界以外でも大いに話題となった。そして来年4月には、大阪府から独立し民間オーケストラとして歩み始めたばかりの日本センチュリー交響楽団の首席指揮者に就任することが決まっている。
「大阪の子どもたちが感性を伸ばせるように、豊かな文化に触れる機会を提供したい。それに文化がどんどん消えてしまうと、活気がなくなり街も沈んでしまう。おそらく僕には山形でやったような役割が期待されているのだと思います」
一楽団の指揮者という枠を超えて、何となく「地域再生請負人」の様を呈してもいるが、本人は「まずは街の活性化が大切ですよ」と涼しい顔だ。
さらにここ数年、力を入れているのが教育の分野だ。パソナグループが主宰する淡路島の「ここから村」に参画。地域活性化と農業、そして芸術家の育成をテーマにしたプロジェクトだが、月に1、2回は必ず音楽指導に訪れている。
「教育に関して本格的に考え始めたのは40代後半ですね。それまでは本業の演奏活動で精一杯で、後進の育成というところまでは手が回らなかった。それが数年前から自分の活動のベースが固まって、教育にも比重を置けるようになってきました」