立命館大学大学院・理工学研究科の取り組みが2007~09年度、文部科学省の大学院教育改革支援プログラム「国際力を備えた技術系大学院学生の育成」に採択された。その3カ年の実績を踏まえ、同大学院では2010年度から独自にプログラムを展開。それがGRGP(Global-ready Graduate Program)だ。グローバル人材を求める企業の採用担当者も注目するこのプログラムの特長とは──。統括する宮野尚哉教授に聞いた

理工学の分野でも重要な
国際コミュニケーション力

GRGPの概要は、どのようなものでしょうか。
宮野尚哉●みやの・たかや
立命館大学理工学部副学部長。
京都大学大学院博士課程卒業。理学博士。研究分野は知能マイクロシステム。住友電気工業などを経て、米国・MIT客員研究員などを歴任。2003年より立命館大学教授。12年より現職。

宮野 GRGPは3つの柱からなります。第一に、集中的かつ双方向の英語授業。第二に、海外の大学や研究所などでのインターンシップ。第三に、シンポジウムや研究成果の英語による報告会の開催です。対象は、理工学、情報理工学、生命科学の各研究科の博士課程前期課程(修士課程)に在籍し、将来は国際的なフィールドで働きたいという強い動機、意欲をもつ学生たちです。これまで毎年、30~40名が履修しています。

なぜ今、理工学系のグローバル人材が求められているとお考えですか。

宮野 日本のグローバル化は、理工学の分野でも明治維新を機に始まり、欧米の近代数理科学や技術が、どんどん入ってくるようになりました。ただそれが、長い間受け身一辺倒だったことは否めません。

しかし戦後になると、日本も基礎科学と応用科学の両輪を走らせ、ノーベル賞受賞者を輩出するまでになりました。そして近年は、日本からも研究成果を発信し、フィードバックを得て、さらなる進歩を遂げる。そんな時代となっています。理工学分野のグローバル化は、広さと深さを増した新たなフェーズにあるのです。

それだけに、理工学系の人材がただ黙々と研究や開発に取り組む時代は終わりました。コミュニケーション能力は必須であり、かつてのような「言葉の壁が原因で、研究成果が正当に評価されない」といった事態があってはならないと考えています。

人材の多様性のなかで
新しい知が生まれる

学生たちにとって、GRGP受講のメリットはどのようなところにあるでしょうか。

宮野 英語力を強化し、それを生かして留学やインターンシップにより海外の多様なメンバーと研究できることは、何にも代えがたい経験となるでしょう。特に欧米の大学院ですと、在籍者の半数以上が留学生の場合もありますから、まさにグローバルな環境で日々活動することになります。

日本の学生全般についていえば、近年は留学が減っています。経済情勢の影響もあるにせよ、海外の情報が容易に入手できるようになったことと無関係ではないでしょう。例えば、私の学生時代は海外の研究論文を読もうにも、それを入手するまでの苦労がありました。しかし、今日ではウェブサイトで容易に読むことができます。情報端末さえあれば、多くのメディアにアクセスできてしまう。だから「留学するまでもない」と錯覚するのではないでしょうか。実際には、メディアを介して届く情報がすべてとは限りません。より深い情報は、ソースを訪ねなければ手に入らないのです。さらに、研究活動というのは、他の研究者たちと会って話し、それぞれの文化に触れ、互いに作用を及ぼし合うなかで、より大きな成果に到達することができるものなのです。

もう一つ、帰国した学生たちにいつも驚かされることは、見違えるほどの自信をもっていることです。現地では住まいの手配に始まり何もかもが、いわばサバイバル。また学部生が語学留学した場合と違い、院生であるGRGP受講生は、より明確な目的のもと、現地の組織の一員として専門的な務めを果たさなければなりません。そういう試練を乗り越え、「自分はやっていける」という自信をつかむのだと思います。