11年5月11日、1人の米国人男性が首相官邸を訪れて1時間半ほど官邸の関係者と話し込んだ。男性は、10年12月に米国務省で行われた米国大学生向け講義で沖縄県民を冒涜する発言を重ねたとされ、世論の厳しい批判を浴びたことがきっかけで米国務省日本部長を解任されたケビン・メア氏。大学生たちは沖縄渡航前だったため、その発言に多くの国民が悪意を感じた。同氏は発言の事実を否定したが、東電福島原発事故が勃発する前日の3月10日に日本部長を解任され、結局、その約1カ月後に国務省を退職する。

現在、同氏が所属するのは、ワシントンの民間会社NMVコンサルティングLLC。リチャード・ローレス元米国防副次官(アジア・太平洋地域担当)らが創設した。メア氏は同社で核燃料の再処理担当。両者とも在沖米軍基地問題では名の知れた人物である。LLC(合同会社)は株式会社と異なり、人脈を主体に事業を展開する。

その日、メア氏が官邸に訪ねた相手は前田匡史内閣官房参与だった。同参与は、仙谷由人官房長官(当時)の肝いりで菅内閣発足直後に官邸入りした人物で、資源外交に詳しい。

ローレス氏やメア氏が知悉する普天間移設問題では、日米両政府が在沖米海兵隊とその家族のグアム移転経費について、「総額約102.7億ドルのうち日本側が約61億ドルを負担する」ことですでに合意済み。普天間基地の代替施設として辺野古に計画された新基地建設の巨費も別途、日本側負担となる。

しかも、実は日米合意の融資額を上回る資金が財務省所管の国際協力銀行(JBIC)を通じて米国側に追加融資される案を日本側が非公式に米政府に伝えていたことが10年夏に露見した。

前田参与は、このJBICの現職部長でもあり、アーミテージ元米国務副長官やベーカー元米国務長官など米国人脈にも広く深く通じている。核廃棄物処理という原発関連ビジネスと、在日米軍基地に深く関わる米国務省人脈が、JBIC-財務省という“日本の金庫”とダイレクトに接していたのである。