映画監督、映像作家、写真家 紀里谷和明

1968年、熊本県球磨郡生まれ。83年に15歳で渡米し、マサチューセッツ州ケンブリッジ高校を経て、パーソンズ大学環境デザイン科を中退。94年、写真家としてニューヨークを拠点に活動を開始。数々のアーティストのCDジャケット撮影やミュージックビデオの制作を手がける。2004年、映画「CASSHERN」で監督デビュー。09年、映画「GOEMON」を発表。著書に小説『トラとカラスと絢子の夢』(幻冬舎)がある。現在クリエーターのためのSNS「フリーワールド」を運営するほか新作映画の制作準備中。


 

肉と魚を食べないベジタリアンです。この食生活を選んだのは2年ほど前。食肉1キログラムを生産するために、その約10倍の穀物が飼料として使われ、一方で飢餓により死ぬ人がいること。また、肉は生産や輸送の過程で二酸化炭素を大量に排出するため、肉を食べないことは地球温暖化対策になるという考え方を知ったからです。

ニューヨークでフォトグラファーとしてデビューし、帰国後は、当時最先端だったデジタル技術を使い、アーティストのCDジャケットやミュージックビデオを手がけてきました。あの頃は肉も食べていたし、服や車など、ものも過剰に持っていましたね。いま思うと、それらはまったく不要でした。ものに囲まれていなくても、肉や魚を食べなくても、困ることはありません。

ベジタリアンになると「じゃあ野菜には生命がないのか」「生き物を殺して食べるのは肉も野菜も同じだ」などと言ってくる人が絶対にいます。彼らを否定するつもりはないのに、なぜこちらを攻撃してくるのか。その理由を考えました。

いま、日本はもちろん世界中がおかしな方向へ向かっている。それは誰もが漠然と感じている不安ですよね。そんななか、何かをしなければと思いつつ動けない後ろめたさを抱えたやつが、目の前で動き始めた相手を攻撃して、足を引っ張るんです。よく「出る杭は打たれる」と言いますが、打っているのは誰なのか。どこかにいるかもしれない大物の権力者が、片っ端から叩き潰しているわけではない。打っているのは、進み始めた人を萎縮させる社会の風潮と、出たら打たれるという恐怖により起こる自主規制ではないでしょうか。

「プレジデント」の読者のみなさんは、社会を動かす実力と影響力を持つ方々だと思います。そんな人たちがほんの少しだけ、自分の能力をいままでと違う使い方をすれば、日本の社会に、新しいシステムを構築できるのではないでしょうか。

たとえば、いま世界ではミート・フリー・マンデーといって、毎週月曜日には肉を食べないというムーブメントがあります。それにならって、週に1回肉を食べない日を決めてもいい。もちろん、肉を食べたい人は食べればいい。けれども、俺自身は菜食に切り替えてから、毎朝すっきり目覚められ、風邪をひきにくくなって、体が強くなったと実感しています。忙しいビジネスマンにとって、メリットがあると思いますよ。

俺が言うのはおこがましいことはわかっていますが、社会は個人の集合体であり、ひとりひとりの行動によって社会を変えていくことができる。それを言いたかったのが、今日、俺がここに出てきた理由です。