国民の貯金を投資に回して株式市場を支えてもらおうという狙い

だから国は個人に下支えをしてもらおうと考えて、今、懸命に個人を貯蓄から投資へ誘い込もうとしているのです。それで個人がもうかればいいですが、私はこの状況で投資したところで利益を出せるとは、とうてい思えません。

はっきりいって日本は不況です。好況だという人は、現在の日本が二極化していることに気づいていないのではないでしょうか。晴天なのはピラミッドの上部に位置する大企業や富裕層だけで、その下に位置する中小企業や一般庶民は“ザーザー降り”の状態です。

賃金が33年ぶりに5%以上アップしたといっても、それはピラミッドの上部だけの話。そうした企業も、国の政策によってではなく、人手不足が深刻化したから人材確保のために賃上げしたに過ぎません。

実際、新入社員や中途採用の人の賃金は上がっているものの、住宅ローンや子どもの教育費などでいちばんお金を必要としている50代の人たちの賃金はほとんど上がっていません。むしろ役職定年などで下がっているのが現状です。多くの人が景気回復を実感できていないのも、消費が凍りついているのもそのためです。

そのうえ、家計にとってはこの先も厳しいことばかりが続きます。税金、高齢者の医療費、電気代やガス代などの負担は増すばかり。3月には食品などさまざまなものが一気に値上がりしましたが、これも一度では済まないでしょう。このままいけば家計は冷え込む一方です。

日本はすでに国内向けの経済活動が多くを占める「内需大国」になっているのに、その内需を支える消費は減るばかりで、かつ増えていく要素も見当たらない。ですから私は、今後の株価は決して右肩上がりにはならないだろうと思います。

住宅ローンという名の巨額の借金をまず減らすべき

このように、今はとても投資を始める環境ではないのです。特に初心者の人は、投資を始めるなら経済が安定的に成長しているときを選ぶべきで、現状はあまりにも環境が悪すぎます。これが、私が「新NISAはおやめなさい」という理由です。

「じゃあ新NISAはやめたとして、ほかにどう資産を増やしていけばいいのか」と思う人もいるでしょう。でも、今、資産は「増やす」より「守る」時期です。どう守ればいいのかというと、まずは借金をできるかぎり早く減らすことです。

住宅ローンという名の借金をしている家庭は、意外と多いのではないでしょうか。これには、市場動向に合わせて5年ごとに毎月の返済額が見直される「変動金利」タイプと、借りたときの金利が最後までずっと続く「固定金利」タイプとがありますが、特に要注意なのは変動金利で借りた人です。こうした人は、もし金利が上がってきたら大変なことになるんですよ。