バックラッシュもあるが、価値観の変化は止まらない

さて、冒頭の、田母神氏の発言に戻ろう。現代を「息苦しい時代」と呼び、ハラスメントが容認されていた過去を「寛容」と言い換えて炎上する。彼にとってはこれも芸のうちなのだろう。批判のコメントも取るに足らぬ雑音であるに違いない。訂正や言い訳をするでもなく、その後も平常運転だった。

むしろ、このように「あえて旧時代的な人権感覚にお墨付きを与える発言」をタイミングよく行うことこそが、自身の支持者を喜ばせることを、おそらく彼は自覚してふるまっているのだろう。

ただし、だからといってこういった確信犯的なハラスメント発言をその都度、批判していくことをやめてはいけない。令和は「多様性」や「ポリコレ」の重要性が可視化され、大きく価値観が変わりつつある時代である。

それに対して、「やっと少し生きやすくなった」と安堵あんどの声を漏らす人もいれば、「昔より窮屈になった」と不満を感じる人もいる。子ども、LGBTQ、障害者、女性といった、これまで軽視されてきた者の人権が取り戻されることを、「自分たちの既得権が食われる」ように感じる層がいるのも事実だ。その不満につけ込んで、バックラッシュ(揺り戻し)の旗を振る人間は一定数いるが、それにまどわされてはいけない。

藤井 セイラ(ふじい・せいら)
ライター・コラムニスト

東京大学文学部卒業、出版大手を経てフリーに。企業広報やブランディングを行うかたわら、執筆活動を行う。芸能記事の執筆は今回が初めて。集英社のWEB「よみタイ」でDV避難エッセイ『逃げる技術!』を連載中。保有資格に、保育士、学芸員、日本語教師、幼保英検1級、小学校英語指導資格、ファイナンシャルプランナーなど。趣味は絵本の読み聞かせ、ヨガ。