絞り込みで谷を越えた文書管理システム「ドキュメンタム」

Q:キャズムを越えるためにはどのような戦略が必要になりますか?

<お答えしましょう!>

幅広く攻めてもダメで、大きな「痛み」を持った顧客に絞り込むことで一気にキャズムを越えることができます。

キャズムを越えるには、現実主義者が感じるリスクを減らす必要があります。そこで必要なのが、同じ現実主義者のユーザー事例。参考になるのが、文書管理システム「ドキュメンタム」の事例です。ドキュメンタムは設計図面や契約文書などを管理する企業向けシステムで、当初は成長を続けていましたが、キャズムの直前で売れ行きが止まりました。

開発
写真=iStock.com/Peach_iStock
※写真はイメージです

そこで、対応する業務分野を75から2分野まで絞り込みました。そのひとつが、製薬業界の新薬認可申請業務です

製薬業界40のうち30社が導入

製薬会社の新薬申請業務は、申請書類だけで25万〜50万ページとなり、膨大なデータを調べた上で書類を作成するので、製薬会社は1日1億円の費用と数カ月の期間を要していました。

永井孝尚監修『モノではなく価値を売るために マーケティングについて永井孝尚先生に聞いてみた』(Gakken)
永井孝尚監修『モノではなく価値を売るために マーケティングについて永井孝尚先生に聞いてみた』(Gakken)

申請が遅れると、その期間の新薬特許収入は失われてしまいます。これは製薬会社にとって「大きな痛み」でした。製薬会社は「お金がかかってもいいから業務を迅速化したい」と考えていました。そこでドキュメンタムは新薬認可申請業務の専用システムを提供し、大きな成果を上げました。

これがユーザー事例となり、製薬業界トップ40のうち30社が導入。製薬業界内でキャズムを一気に越えると、同じような課題を持った製造・金融などの業界にも販路を広げていきました。

顧客の痛みを見極めてターゲットを絞り込み、そこでキャズムを超えてからほかの市場に広げていけば、新商品が成功する可能性は大きく高まります。

KEYWORD:ユーザー事例
アーリー・マジョリティ(現実主義者)は、自分と同じようなタイプのユーザー事例があって初めて購入を考える。
永井 孝尚(ながい・たかひさ)
マーケティング戦略コンサルタント

マーケティング戦略コンサルタント。慶應義塾大学工学部(現・理工学部)を卒業後、日本IBMに入社。IBM大和研究所の製品開発マネジャー、ソフトウェア事業のマーケティング戦略マネージャー、人材育成部長として30年間勤務。2013年に日本IBMを退社して独立し、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表取締役に就任。製造業・サービス業・流通業・金融業・公共団体など、幅広い企業や団体を対象に、年間数十件の講演やワークショップ研修を実施。さらにビジネスパーソン向けに経営戦略力を高める完全オンライン制「永井経営塾」も主宰している。著書に『100円のコーラを1000円で売る方法』『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(以上、KADOKAWA)などがあり、著書累計は100万部を超える。