気持ちを切り替えて充実した日々に

気持ちを切り替えてからの渡辺さんは「毎日がハッピーだった」と振り返る。

楽しくてしょうがなかったです。料理も研究してね。子どもたちの成長に良いものをつくろうと、「まごわやさしい」(健康維持に役立つ和食材の最初の文字を並べた呼び方)を揃えたりしてました。双子が小学校に入って、スポーツを始めるようになると、運動のエネルギーになる食事を考えたりもしました。日中は、妻の仕事を手伝うために事務所に行き、好きな政治にも携われましたし。あっという間の九年間でした。

ある時期から、空いている時間を活用して、妻の市議活動を裏方として支え始めた。妻が県議に当選した後は、より前面に出てサポートするようになり、政務調査費の会計作業や日程管理を担当する秘書業務を担った。地方議員には公費で人件費を負担する公設秘書制度がないため、妻からの支出で月三万円の収入を得た。収入がゼロの専業主夫ではなく、収入がある兼業主夫に転じ、ストレスを抱えることもなく、充実した日々を送っていた。

四つ葉のクローバー
写真=iStock.com/shironagasukujira
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「○○ちゃんのパパは、何で仕事してないの」の一言

とは言え、昼夜とも妻を支え、子どもを育てるというライフスタイルをどう見られているのか、周囲の視線が気になることはなかったのだろうか。

具体的なエピソードが、二つ挙げられます。一つ目は、県議選に落選した後、久々に再会した高齢の男性支援者から、こんなことを言われました。「いつまで遊んでんだ」と。双子が生まれて、主夫になった時です。妻の仕事を手伝っていたので、ショックでしたね。「こっちは遊んでねえんだけど」っていう思いです。

もう一つは、長女が四歳か五歳の頃でした。延長保育がある幼稚園に入れていたんですが、その日は延長ができず、午後二時に迎えに行きました。長女は、いつもより帰りが早いこともあり、「パパ、友達とお庭で遊んでから帰りたい」と言うので、「いいよ」と応じて、園庭で遊ぶのを見ながら、遊び終わるのを待っていました。

平日の午後二時、園庭にいた男性は渡辺さんだけで、他は女性ばかり。話し相手もいないため、園庭の隅っこで、ずっと新聞を読んでいた。

変なおっさんみたいなシーンですよね。そこに、ある子が近づいてきて、「○○ちゃん(長女の名前)のパパは、何で仕事してないの」って一言。もう、グサリですね。子どもって、本当に残酷だと思いました。あのシーンは今でも目に焼き付いています。辛かったですね。恥ずかしいし、情けなかったです。

子どもははっきりと口にするので、自分がどう見られているかが分かってしまう。片や、迎えに来ていたママたちは、口にこそしないものの、何を考えているかは分からない。

「仕事はどうしているのか、とか言われてるんじゃないか」と、視線が気になって仕方がなかった。