配偶者の現地就労が推奨されないという実情

とはいえ、駐妻の就労は推奨されているとは言いがたいのが実情だ。

ドイツ在住の駐妻に対するインタビュー調査から、夫の企業側が配偶者の現地就労を巡り、規則などで就労を禁止している事例が明らかになっている。また、禁止こそしないもののあまり奨励しない事例、反対に奨励する事例もある(三浦二〇一九)。

小西一禎『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)
小西一禎『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)

夫の駐在期間には期限があるため、配偶者である妻の採用に慎重姿勢を示す企業もあるとみられる。言葉の壁もあるため現実問題として就労は困難であるとの見方もあろう。企業側としても、配偶者が就労するとなると、国によってはビザを切り替える必要もある。

また、扶養者から外れるため、保険や納税などの手続きが煩雑になるのを避ける狙いも透けてみえる。

変化の動きもある。二〇二〇年に始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、世界的に働き方を見直すきっかけとなった。国内でもリモートワークが幅広く導入された。これに先立つこと約二〇年前、夫に同行した妻に対し、現地からリモートワークによる業務継続を促した企業(外資系)があり、その妻は実際にリモートで仕事を継続した事例(石川・小豆川二〇〇一)があったのは特筆に値する。また、妻が所属する企業が日系、外資系を問わず、夫の国外勤務地への転勤や現地法人に異動させるなどして、現地での就労をバックアップしていた例もあった。

オフィスの仲間
写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs
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夫婦同じ赴任地のおしどり転勤は困難

三善勝代は、国内外を含めた夫の転勤により生じる夫婦の形態を「家族帯同転勤」と「単身赴任」、「おしどり転勤」、「コミューター・マリッジ」の四つに分類している(三善二〇〇九)。家族帯同転勤とは、妻が専業主婦の場合はもちろんのこと、有職の場合でも休職か退職して赴任地に一緒に赴く形態である。おしどり転勤は、妻が夫と同じ赴任先に転勤し就業するタイプ、コミューター・マリッジは一時的に別居して、夫も妻もそれぞれがキャリアを継続する様式を指す。三善の分類では、単身赴任はコミューター・マリッジと違って、(妻が専業主婦ならば)夫だけが赴任する場合だ。ただ、近年は妻が就労を続けることによって、夫婦どちらかが単身赴任になるケースもあり、コミューター・マリッジとの区分けがしにくくなっている。

このうち、夫婦が同居する形式は、おしどり転勤と家族帯同転勤の二つだ。ただ、仮に夫婦が同じ会社に勤めていて、夫が海外赴任になった場合でも、妻が夫の勤務地に必ずしも転勤できるとは限らない。違う会社なら、なおさら非現実的であり、おしどり転勤は実際にはなかなか難しい。家族帯同転勤のケースでは、妻がキャリア中断に追い込まれる可能性が十分にある。

小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト 元米国在住駐夫 元共同通信政治部記者

1972年生まれ。埼玉県行田市出身。慶應義塾大学卒業後、共同通信社に入社。2005年より政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い会社の休職制度を男性で初めて取得、妻・二児とともに米国に移住。在米中、休職期間満期のため退社。21年、帰国。元コロンビア大東アジア研究所客員研究員。在米時から、駐在員の夫「駐夫」(ちゅうおっと)として、各メディアに多数寄稿。150人超でつくる「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。専門はキャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、団塊ジュニアなど。著書に『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)、『猪木道 政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。修士(政策学)。