「愛子さま」「皇太子さま」という声も

お出ましの前には、宮内庁の職員による放送で、被災者への配慮から万歳などの大きな声を出さないように、との呼びかけがあった。それでも一部から、「天皇陛下万歳」「お誕生日おめでとうございます」といった声が聞こえたのは、やむにやまれない祝意の発露だろう。

その他に「愛子さま」という声も繰り返しあがったようだ。まだご成年を迎えられてからさほど歳月が経っておらず、ご公務へのご参加もこれから本格化する今の時点で、すでに敬宮殿下への敬愛の気持ちを強く持つ人たちが多くいる事実をうかがわせる。

別に「皇太子さま」という声も聞こえたそうだ。

厳格な意味では“皇太子”とは皇位継承順位が第1位の天皇陛下のお子様をさす(皇室典範第8条)。なので現在は不在だ。

秋篠宮殿下は今の時点では皇位継承順位が第1位だが、もちろん天皇陛下の弟宮にあたりお子様ではない。一方、敬宮殿下は天皇陛下のお子様ながら、今のルールでは皇位継承資格をお持ちでない。

しかし先の「皇太子さま」というのは、おそらく敬宮殿下のつもりだろう。ひょっとすると、天皇陛下にお健やかでご聡明なお子様がいらっしゃるにもかかわらず、ただ「女性だから」というだけの理由で皇位継承資格を認めない、皇室典範のいかにも“旧式な”ルールへの違和感があって、あえてこうした言い方をしたのかもしれない。

陛下の記者会見での警鐘

天皇陛下はお誕生日に際しての記者会見で、皇室の将来への危機感を次のように表明しておられる。

「現在、男性皇族の数が減り、高齢化が進んでいること、女性皇族は結婚により皇籍を離脱すること、といった事情により、公的活動を担うことができる皇族は以前に比べ、減少してきております。そのことは皇室の将来とも関係する問題です」と。

憲法上、国政権能を否定されている天皇陛下のお立場としては、ギリギリのご警鐘だろう。

このような皇室の危機を招いているのは、女性皇族に皇位継承資格を認めず、ご結婚とともに皇籍を離脱しなければならない、皇室典範の旧式なルールそのものだ。

このルールを変更して、未婚の女性皇族方にも皇位継承資格を認めなければ、次の世代の皇位継承資格者は秋篠宮家のご長男、悠仁親王殿下“たったお一人だけ”、という危機は去らない。

雨の天皇誕生日に図らずも目に見える形で浮かび上がった皇室と国民との一体感。それを将来へとつなぐためには、時代錯誤な古いルールは先送りせずに見直す必要があるのではないだろうか。

私の娘は皇居からの帰り道にこんな感想を述べた。「今日は雨が降って寒かった。だけど素敵な光景を見ることができたので、かえってよかったかもしれない」と。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録