老年離婚は夫婦だけの問題ではない

また、老年離婚は、夫婦を取り巻く家族の問題とも密接な関係があります。

「両親の離婚について相談したい」と子どもが相談してきたので話を聞くと、「両親が不仲なのは知っているが、誰も引き取りたくないので、弁護士に依頼してほかの解決策を知りたい」というケースもありました。

また、老夫婦の両方が明らかに介護が必要な状態なのに、助ける親族がおらず、老々介護のような状態で不仲がどんどん悪化していたという事例もありました。

妻が長年夫からDVを受けていたのに、子どもたちがそろって知らないふりをしてきて、離婚問題にも関わろうとしないというケースもあります。

私がさまざまな事例を見てきた経験から言えるのは、老年離婚のためには、長年にわたる家族全体の問題を解決する必要があるということです。

両親の引き取り手を決めるために、まず子どもたち同士の不仲を解消して、ようやく話し合いができたというケースもあります。

連絡のために両親に初めて携帯電話を持たせて、疎遠だった子どもたちが使い方を教えて……といった交流が生まれることもあります。

長年続いてきた夫婦生活を解消して、離れて暮らすには、どうしても家族の助け合いが必要です。そのため、老年離婚の事例では、家族からどんな協力をしてもらえるかを模索する過程で、家族が再構築されていくのです。

夫婦は離婚に至ってしまうわけですが、家族が助け合って生活を確保するので、ある意味で前向きな面もあると私は思います。

人生の最後を自分らしく生きる

老年離婚は、それまでの人生を清算して、人生の最後を自分らしく生きるための大きなステップと言えます。

これまでに挙げたように、離婚までの道のりはかなり大変です。それでも離婚したいという強い決意のある方は、必ず周囲に助けを求めて、離婚に向けて動くようにしてほしいと思います。

子ども世代の協力も必要不可欠です。特に40代から50代前後の皆さんは、これから両親の離婚問題に巻き込まれることが増えていくと思います。その時に、「高齢だから本気で離婚したいわけではないだろう」と放置していると、不仲が深刻になってしまうことがあります。

両親の話を聞き、離れて暮らすしかないと判断した時には、手助けをしてあげてください。

堀井 亜生(ほりい・あおい)
弁護士

北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。