「自分のやりたい仕事」「誰かのやりたい仕事」

身の回りの大人たちを見ていて、世の中には、「自分のやりたい仕事をする人」と「誰かのやりたい仕事をする人」の2種類しかいないと私は思う。「仕事をしている人」と「仕事をさせられている人」と言ってもいいかもしれない。

もちろん、何もかも自分のやりたいように仕事できる人は少ない。サラリーマンであれば、仕事は会社から与えられる。

しかし、与えられた仕事を自分なりの仕事にリフレーミングして、自分の仕事として楽しめる人がいる。そういう人たちの多くは、仕事ができると評価されている人たちだ。そして、そういう人たちは、ある程度、年齢を経て経験を積めば、自分のやりたいことに近いことを実現できる。

もちろん、自分のやりたいことをそのまま実現できるとは限らない。しかし、やりたいことに近いことは実現できるのである。

「仕事をしている人」と「仕事をさせられている人」は、「仕事をしている人」の方が絶対、楽しいと私は思う。だから、私は学生たちに社会に出たら「仕事をしている人」であってほしいと思う。

「ジブンデヤル世界」と「ヤラサレテヤル世界」

指示待ち型の学生は、私が指示すれば、私の思い通りに動く。

しかし、「好きなようにしていいよ」と言うと、戸惑って、何もできなくなってしまう。私にとっては、便利なことこの上ないが、それでは学生たちがあまりにかわいそうだ。

稲垣栄洋『雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々』(小学館)
稲垣栄洋『雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々』(小学館)

私が学生に配る資料には、次のような文章を載せている。

「世の中には、『ジブンデヤル世界』と『ヤラサレテヤル世界』とがあります。ヤラサレテヤル世界の住人は、ずっと誰かがやりたいことをしています。ジブンデヤル世界の住人は、だんだんと自分がやりたいことができるようになっていきます。あなたは、どちらを選びますか?」
「指示待ち型は、楽しくない。彼らを主体的に動けるようにしてあげたい」

私は頑なに、こう考えていた。そう、彼に出会うまでは……。

稲垣 栄洋(いながき・ひでひろ)
静岡大学大学院教授

1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学大学院教授。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する著述や講演を行っている。著書に、『植物はなぜ動かないのか』『雑草はなぜそこに生えているのか『イネという不思議な植物』『はずれ者が進化をつくる』(ちくまプリマー新書)、『身近な雑草の愉快な生きかた』『身近な野菜のなるほど観察録』『身近な虫たちの華麗な生きかた』『身近な野の草 日本のこころ』『身近な生きものの子育て奮闘記』(ちくま文庫)、『たたかう植物 仁義なき生存戦略』(ちくま新書)など。