ダイコンは浮くか沈むか

試してみると、ダイコンの下の方(先が細くなっている方)は沈み、上の方(葉っぱに近い方)は縦になって水面より上に出た。どうやら、ダイコンの上の方は浮くようだ。

今度は大根を上部と下部に切って試したところ、ダイコンの上の部分は浮いて、下の部分は沈んだ。

「すごい!」

やっぱり、“地面の上”は浮かび、“地面の下”は沈むのだ。

「地面の上の根っこはどうなんでしょう?」

瓜成さんが質問した。

じつはダイコンは根っこだけが太ったものではない。ダイコンの下の方は根っこが太っているが、上の方は胚軸はいじくと呼ばれる茎の部分が太っている。

ダイコンの芽生えである貝割れ大根をイメージするとわかりやすいかもしれない。胚軸は双葉と根っこをつなぐ部分だ。ダイコンの上の方は胚軸である。よくダイコンは上の方は、辛みが少ないと言われるが、それはダイコンの上の部分は胚軸だからなのだ。

ということは、胚軸が浮かんで、根っこが沈んでいるだけなのかも知れない。

ダイコンの胚軸と根っこは、見分けることができる。ダイコンをよく見ると、ポツポツと小さな穴がある。この小さな穴は細かい根っこが生えていたところなので、この穴があるところはダイコンの根っこの部分ということになる。

畑で見ると、この根っこの部分も地面の上にはみ出てしまうことがある。

この地面の上の根っこは、浮かぶのだろうか? それとも沈むのだろうか?

買ってきたダイコンではわからないが、畑であれば、地上にはみ出た根っこがわかる。

そして、ここは大学の農場である。畑ではダイコンを育てているのだ。

「ダイコン取ってきます」

瓜成さんは、もうダイコン畑に向かって走り出していた。

さて、ダイコンの地面の上の根っこは浮かぶだろうか? 沈んだだろうか?

その答えは秘密にしておこう。

ぜひ、プランターでダイコンを育てて、試してみてほしい。

細い雑草の根っこは浮かぶのか

「サツマイモやニンジンは、栄養分を蓄積して、根っこが太っていますよね」

瓜成さんが、聞いてきた。

稲垣栄洋『雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々』(小学館)
稲垣栄洋『雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々』(小学館)

「じゃあ、細い雑草の根っこはどうなるんでしょう?」
「うーん、どうなるんだろうね?」

私はうなってしまった。

木材が水に浮かぶように、植物は基本的には水に浮かぶ。しかし、サツマイモやニンジンは、栄養分を蓄積しているから、比重が大きい。だから沈むのである。

それでは、細い根っこはどうだろう。

地面の下の根っこは植物を土の中に固定しなければならないから、水よりも比重が大きい気がする。しかし、抜いた雑草が浮いているのを見たことがあるような気もする。

どっちなんだろう?

「やってみようよ!」

私の足は、もう外に向かって雑草を取りに駆けだしていた。

瓜成さんは、雑草を教材として授業に使うことを考えたときに、もともと「根っこ」にこだわっていた。何でも小学生のときにアサガオを育てたときに、根っこがどうやって育っているのか、とても気になっていたらしい。しかし、育てているアサガオを抜くことはできない。その点、雑草は抜き放題である。

私と瓜成さんは、思う存分、雑草を抜いてきた。

それでは、雑草の根っこは浮かぶだろうか?

稲垣 栄洋(いながき・ひでひろ)
静岡大学大学院教授

1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学大学院教授。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する著述や講演を行っている。著書に、『植物はなぜ動かないのか』『雑草はなぜそこに生えているのか『イネという不思議な植物』『はずれ者が進化をつくる』(ちくまプリマー新書)、『身近な雑草の愉快な生きかた』『身近な野菜のなるほど観察録』『身近な虫たちの華麗な生きかた』『身近な野の草 日本のこころ』『身近な生きものの子育て奮闘記』(ちくま文庫)、『たたかう植物 仁義なき生存戦略』(ちくま新書)など。