伝説のアナウンサーの名言

「青い空、白い雲」のフレーズで始まる“植草節”の甲子園実況は、「ホームランか? ホームランだ。恐ろしい。両手を挙げた。甲子園は清原(和博)のためにあるのか」に代表される名言を多く残した。プロ野球中継でも、阪神タイガースが21年ぶりにリーグ優勝した85年、甲子園の“バックスクリーン3連発”の実況で、岡田彰布が放った3発目を「センターへ。こぉーれも行くのか? こぉーれも行くのか? こーれも行ったー!」と伝えた“植草節”も耳に残る。甲子園実況は植草貞夫のためにあった。四家アナも言う。

「植草貞夫さんは、『投げた打ったー』と『投げた』と『打った』が一緒になる実況アナウンスが有名ですが、実は『行った』もかなり言っていて、『投げた打ったー』『走っていきました! ランナー、三塁を回ってホームに入っていきました』……というように『行きました』を箇条書き形で連ねた。

もちろん植草さんのは時間稼ぎなんかではなく、『演出』として進行形の連発を淡々とやっていた。そして試合が動くとき、トーンもスピードも上げ、進行形も使ったり使わなかったりと変化をつけ、一気にまくしたててプレーを盛り上げた。だから進行形の連発も鬱陶しく感じない。それは植草さんにしかできない『演出』だったからです」

ただその影響力は強く、「演出」だった進行形が後輩アナウンサーたちによってABCのスタイルになり、また未熟なアナウンサーにとって進行形は、実際使ってみるととても便利であり、それが局の壁を越えて蔓延したのではないか――と四家アナは考えている。

その影響力は強く、一時期、ABCの後輩アナウンサーたちは皆、植草調だったといわれるし、それがやがて局や競技種目の壁を越え、さまざまな実況に広がっていった――あ、「行った」と書いてしまったな――。

格闘技の実況は野球以上

もうひとりのレジェンドの存在も、四家アナは指摘する。80年代、プロレス実況で爆発的な人気を獲得した、元テレビ朝日の古舘伊知郎アナウンサー。

この人も進行形を多用。多くの格闘技ファンは古舘ファンとなり、古舘ファンは格闘技ファンとなり、今の格闘技のアナウンサーも「(技を)かけていったー」「投げていったー」「ロープに飛ばしていったー」「抑えていったー」と行きっぱなし。他のスポーツと比べても格闘技での「行った」「来た」の頻度は群を抜き、もはや野球以上だ。

ボクシングのリング
写真=iStock.com/Artur Didyk
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