ハリーと王室の人気を下げた『スペア』

前述のYouGovによる調査では、本の発売以来、英国ではハリーの人気も王室の人気もともに下がっている。ハリーに反感を持つ人の割合は回答数の68%。出版直前の調査時64%から2日で4ポイントも増えた。特に65歳以上を対象とした調査では、メーガンが最も嫌われ者で73%、続いてハリーの69%、未成年売春疑いで公的地位を失ったアンドルー王子(チャールズの弟)60%と続く。18~24歳では王室への関心そのものが低いが、それでも35%が「今のロイヤルファミリーは英国を恥ずかしめている」と答えた。

王室の人気を追う別の統計機関Ipsosも、出版後にハリーに好感を持つ人の割合が30%から23%に7ポイント下がっただけでなく、ウィリアムも69%から61%に8ポイント落ちたとしている。王室本の著者アンジェラ・レヴァインは「浅薄な暴露本の出版で、今やハリーとメーガンは世界の笑い者になった」とTVインタビューで語った。

しかし、「どうせスペアなんだから」と甘やかして育てた次男坊にかみつかれ、今やすっかり振り回されている王室も同じような立場ではないか。自分が読後に感じたことは統計データに表れていると思う。

今年5月6日には新王の戴冠式が執り行われる。チャールズ3世王はハリー夫妻の出席を望み、カンタベリー大主教に仲直りの仲介依頼を提案するも、「弟は信頼できない」とウィリアムは反対したそうだ。ハリー側はすでにさまざまな出席の条件を提示していたが、兄の一言でさらに要求はエスカレート中と報道されている。

これから戴冠式に向かってさらにドロドロしたドラマが展開されるのだろうか。母の事故死以外はどこにでもありそうな家族問題を400ページにわたって読まされた後では、もううんざりとしか言いようがない。

メーガンと出会い、渇望していた温かい家庭を手に入れたハリーを心から祝福したい。だが、そろそろ自分だけが被害者というメンタリティから抜け出してもいいのではないだろうか。

冨久岡 ナヲ(ふくおか・なを)
ジャーナリスト

イギリスの動きと文化を伝える記事執筆、食の動画などメディア制作、イベントプロデュースなど幅広い活動を行う。在英20年あまり。共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓 家族と多様性の各国事情』(ちくま新書)ほか。