事前に企画会議にはかれば本が出せなくなるジレンマ

実はこの問題については、7、8年前にブログ(「平山瑞穂の白いシミ通信」)でも論じているのだが、そのとき僕は、以下のように綴っている。

本来なら、「こういう不可解な慣行はすぐにでも改めてください」と出版業界全体に対して声高に訴えたいところだ。しかし実のところ、それをためらう気持ちも僕にはある。もしもその「本来の順序」が貫徹されるようになった場合、何が発生するかというと、「現時点で売れていない作家の作品を出版しようという企画は、ことごとく水際で却下される」という事態だ。そうなったら、僕のように「客観的に見てプラスの材料」にきわめて乏しい作家は、へたをすれば永遠に本を出せなくなってしまうかもしれない。

その後、事態はさらに悪化して、現在の僕はすでに、ほぼ上記ブログで予見したとおりの状態に置かれていると言っていい。文芸出版業界自体も、おそらく、ある時点で、この発注システムの問題点に気づいたのだろう。ある時期以降、たとえばこちらから「新作を書かせてもらえないか」と編集者に持ちかけても、その場では確答せず、先に企画会議に諮って結果が出てから、初めて僕にゴーサインを出すようになってきた。

もちろん、ゴーサインが出ない場合もある。最近は、ほぼ出ない。

売れ線だけでは…というのは負け犬の遠吠えか

社会通念に反する慣行は結果として是正されたわけで、そのこと自体は喜ぶべきなのかもしれないが、僕のように、あらかじめ道を塞がれてしまった身にしてみれば、喜ぶどころではない。率直にいって、お先はまっ暗だ。

そうして「それまでのデータから判断して売れないと見込まれる作品(作家)」をやみくもに、機械的に排除していくやり方は、文芸の世界から多様性を奪っていくことにつながる。多様性を失った種は、種として脆弱ぜいじゃくになり、滅びに向かっていくだけだと思うのだが、僕がここでこんなことを訴えても、負け犬の遠吠えにしかならないのだろう。

平山 瑞穂(ひらやま・みずほ)
作家

1968年生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年『ラス・マンチャス通信』(角川文庫)で第16回日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビュー。2作目の『忘れないと誓ったぼくがいた』(新潮文庫)は2015年に映画化。4作目『冥王星パーティ』の文庫版『あの日の僕らにさよなら』(新潮文庫)は10万部超えのヒットに。現在はライターとしても活動する。最新刊は小説+エッセイのハイブリッド作品『近くて遠いままの国 極私的日韓関係史』(論創社)。