長男との結婚による妻の満足度低下は続いている

長男との結婚にはさまざまな負担が伴うと考えられますが、この影響は近年でも続いているのでしょうか。

この点に関して、妻が1970年以降に生まれたかどうかで影響に違いが生まれるのかを検証してみました。

その結果、1970年以降に生まれた妻でも、長男との結婚によって幸福度は依然として低下しており、その影響は弱まっていませんでした。また、居住地域、家族生活、そして、家計の経済状況に関する満足度も低下していたのです(*3)。家計の経済状況に関する満足度の低下は、長男との結婚のメリット(学歴・収入が高い)がやや弱まっている可能性があることを示唆しています。

以上の結果から、比較的近年に長男と結婚した女性でも、幸福度や満足度が依然として低下する傾向にあると言えます。

疲れ果ててソファーにうつぶせになっているビジネスウーマン
写真=iStock.com/eggeeggjiew
※写真はイメージです

きょうだい数の減少で「一人っ子長男」が増加

「長男重視」の傾向が低下しているはずなのに、なぜ長男との結婚によるマイナスの影響が続いているのでしょうか。

この原因の一つとして考えられるのが、少子化によるきょうだい数の減少で増加した「一人っ子長男」です。

図表2は妻が45~49歳の夫婦の子どもが一人である割合の推移を示しています。1977年には11%でしたが、2021年には19.4%にまで増加しています。

【図表】妻が45~49歳の夫婦の一人っ子の割合の推移

これは、近年になるほど「一人っ子長男」に出会う可能性が増加したことを意味します。また、年老いた義両親の面倒を見る負担が一人っ子の夫に集中する可能性も増加し、これが女性の満足度を引き続き押し下げる原因になったと予想されます。

少子化によるきょうだい数の低下が思わぬ形で長男との結婚のマイナスの影響を継続させた可能性があると言えるでしょう。

長男との結婚によって女性の幸福度は確かに低下しますが、規模で言えば義両親との同居の影響の方が大きいと言えます。

長男という立場上、年老いた両親の面倒を見たいという夫の気持ちも理解できます。

しかし、妻の立場をおもんぱかれば、必ずしも同居という選択肢を選ぶ必要はないかもしれません。

【参考文献】
(*1)Fujimoto, J., Meng, X., 2019. Curse or blessing: Investigating the education and income of firstborns and only boys, Journal of the Japanese and International Economies, 53, 1-20.
(*2)Averett, S.L., Argys, L.M. & Rees, D.I. 2011. Older siblings and adolescent risky behavior: does parenting play a role? Journal of Population Economics, 24, 957–978.
(*3)Sato, K 2022. Does the marriage with the man who is the eldest son bring happiness to women?: Evidence from Japan, PDRC Discussion Paper Series DP2022-004.

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。