信長・秀吉・家康の決定的な性格の違いとは?

家康の性格については、これまでさまざまなとらえられ方がされてきましたが、私は信長や秀吉と比べると非常に明確になると思っています。

安部龍太郎『家康はなぜ乱世の覇者となれたのか』(NHK出版)
安部龍太郎『家康はなぜ乱世の覇者となれたのか』(NHK出版)

信長は直線的です。物事の本質をつかんで、そこに向かってわき目もふらず突き進む。そして秀吉は多角的。一つのことをするのにも、その裏でじつにさまざまな方向に目配りをして、目的を実現する。

それに比べると、家康は螺旋的だったと言えるのではないでしょうか。ある方向から見ると、同じところをぐるぐる回っているように見える。何事にも慎重で思慮深いからです。しかし、じつは螺旋を描くように少しずつ、確実に高みに上がっている。

そんな家康の人柄は、「東照宮御遺訓」のなかによく表れています。「人の一生は重荷を負ひて遠き道をゆくが如し、急ぐべからず」はよく知られていますが、私は「己を責めて人を責むるな」の一条が好きです。

命の取り合いが日常茶飯事だった戦国時代に、こんなモットーを持って生き抜くのはどれほど難しかったことでしょう。

怒りや憎しみにはらわたが煮えくり返るときもあったでしょうが、家康はこの世を浄土に変えるという遠い理想を実現するために、「己を責めて人を責むるな」と自分に言い聞かせていたのです。

安部 龍太郎(あべ・りゅうたろう)
小説家

1955年福岡県生まれ。久留米高専卒。1990年『血の日本史』でデビュー。2005年『天馬、翔ける』で中山義秀文学賞を受賞。主な著作は、『関ヶ原連判状』、『信長燃ゆ』、『生きて候』、『天下布武』、『恋七夜』、『道誉と正成』、『下天を謀る』、『蒼き信長』、『レオン氏郷』など多数。大河小説『家康』(幻冬舎時代小説文庫)を連載中。