自分を許すための言い訳にする

もし、患者さんに構う余裕がない罪悪感をなかなか手放せないときは、患者さんと関わる時間を増やすために今できることをやってみましょう。

井上智介『どうする? 家族のメンタル不調』(集英社)
井上智介『どうする? 家族のメンタル不調』(集英社)

たとえば、会社に事情を伝えて、部署異動や配置換えなどを配慮してもらえるならお願いしてください。仕事量を減らしてもらったり、時短勤務に切り替えてもらったり、できることが何かあるはずです。

こうした対策を取ることで、実際に時間的にも余裕を作れるかもしれません。さらに、あなた自身の罪悪感を和らげる要素にもなります。

「もうやれることは、すでにやっている」という事実が、あなたを守る免罪符になるのです。相手にドライな対応をせざるをえないとき、そんな自分を許すための言い訳にしてください。

ですから一度、事情を会社に相談してみる価値はあります。会社によっては何の手立ても講じてくれない場合もありますし、前例がなくて話がうまく進まないこともありえますが、たとえ結果は振るわなくとも、「相談をした」という事実が重要です。

我慢の上に成り立つ献身は続かない

患者さんのために能動的に動き、さらに外に事情を話すことで家庭が開かれます。停滞していた状況に風穴をあけるきっかけは、こういうところに隠れています。

注意してほしいのは、患者さんに罪悪感を覚えているタイミングで、一人で「大きな決断」をしないことです。相手のためにという気持ちから、仕事を辞めたり、引っ越しをしたり、大金をかけて何かをしたりしないでください。

「相手のために」を理由に起こした行動の根底には、必ずあなたの「我慢」が隠れています。我慢の上に成り立つ献身は、続くものではありません。却って大きな負の感情を連れてくることは知っておいてください。

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。