Q 俣野さんはプロフェッショナルサラリーマンになるためには、「仕事をつくって、回して、稼ぐ」という一連の流れが実行できなければならないと主張しています。その一連の流れのファーストステップである「仕事をつくる」ためには、アイデアが必要です。俣野さんはどのようにして、新しい事業のアイデア出しをしていますか?(電子回路メーカー研究職、男性、20代)


A とてもいい質問ですね。

僕は拙著『プロフェッショナルサラリーマン』のなかで、「プロとは仕事をつくって、回して、稼げる人である」と定義しました。

誤解を招く言い方だったかもしれませんが、この「つくる」「回す」「稼ぐ」という流れは実際の仕事の順番であって、「できるようになる」順番ではないのです。

ほとんどの人が入社して最初に命じられるのが、真ん中の「回す」のパートです。つまり会社には、誰かがアイデアを思いついて、利益が出るようにつくった仕組みがいくつかある。その仕組みの運営の一部分だけを担当するうち、やがてそれに習熟して自分も利益を出すことに貢献できるようになる。それが「稼ぐ」ということです。営業マンがたくさん注文をとってくるとか、ヒット商品を開発するということも「稼ぐ」ですし、請求書をスピーディーに処理するとか、資材を安く調達するなどということも、一連の流れを円滑に回し、会社が利益を残すことに貢献していますから、それも「稼ぐ」です。

そうやって「回して」「稼いで」いるうちに、だんだん自社や他社がどうやって収益を上げているのかという全体的な構造が見えてくる。また、どういう人が自社のお客さんで、何に喜んでお金を払うのかというようなことが、肌感覚でわかってくる。そうなると、「ここの仕組みの一部を変えるだけで、もっとほかの客層を取り込めるんじゃないかな」とか、「自社の顧客が喜ぶ商品はどうやらほかにもたくさんあるぞ」などと見当がつくようになってくる。これこそが新しい事業のアイデアです。だから入社したばかりの若手社員が夢のような一攫千金のアイデアを得ることはまずないし、いまの仕事とまったく無関係な、よく知らない業界のアイデアを思いつくこともないと言っていい。経験を重ねていく中で培われてくる目によって、既存の仕組みと時代の変化のギャップが見えてくるのです。それがアイデアの原形です。

だから僕は特に改まって、「いまから新しい事業のアイデア出しをしよう」と思うことはありません。新しいアイデアは、日々の仕事のなかで自然とひらめくものだからです(ただし、常にアンテナを張っていることが条件ですが)。

それに、自分が思いついた「名案」というのは、得てして他の誰かも思いついているものですし、実行の伴わないアイデアはお金になりません。

したがって新しい事業のアイデアを得ようと思うなら、まずは「回す」をしっかりやること。そうすれば徐々に「稼ぐ」ができるようになり、その次に「つくる」もできるようになります。

ちなみに僕は勤めていた時計メーカーをリストラされそうになったことをきっかけに社内ベンチャーに応募し、その新事業がうまく軌道にのって現在にいたるわけですが、その社内ベンチャーに応募したアイデアを思いついたのは、新入社員のときの忘れられない体験がもとになっています。それは「新品の時計を捨てる」という作業の手伝いを命じられたことでした。

当時の会社は、不良品でも何でもないピカピカの時計を「売れ残り」という理由だけで廃棄処分にしていました。でもそのまま捨てたのでは誰かに拾われて転売される危険があるので、バラバラに壊してから捨てていたのです。僕はその準備として、袋から出したり商品タグをはずしたりする作業を手伝いました。このとき先輩社員は「こんなことをしている姿、これを一生懸命つくった工場の人たちには見せられないな」と言った。僕もそう思いました。でも在庫を抱えることはコストがかかるし、下手に価格を下げて安売りすればブランドが崩れてしまう。だから捨てるしかない。値札をはずしたり袋から出したりする単純作業をしながら、僕の心には強烈な問題意識が残ったのです。

ブランド品の型落ちや在庫品を安く売る店を集めた「アウトレットモール」が日本に上陸して一大ブームを巻き起こしたのはその5年以上も後になってからでした。その時に僕はアウトレットモールに出店して在庫品を売るという新事業はいけると着想したのです。

「仕事をつくる」ためのアイデアは、本当に日常に転がっているものだということが、わかってもらえたでしょうか。

※本連載は書籍『プロフェッショナルサラリーマン 実践Q&A』に掲載されています(一部除く)

(撮影=尾関裕士)