慶應義塾大学医学部准教授、病理診断部部長
向井万起男

(むかい・まきお)
1947年、東京都生まれ。72年、慶應義塾大学医学部卒業。妻の向井千秋氏は、日本初の女性宇宙飛行士。著書に『君について行こう』(正・続)、『謎の1セント硬貨』ほか。

科学にはマジメに真理を追究する一方で、ライバルを意識し競い合う人間臭い面もある。DNAの構造を解明しノーベル賞を得たワトソンとクリック。『二重らせん』(1)は、ワトソンがその舞台裏を克明に著した本だ。無味乾燥な科学や研究の話ではなく人間ドラマとして楽しめる。

1990年以降、私の価値観を最も変えたのが『ワンダフル・ライフ』(8)だ。著者のグールドはハーバード大学の古生物学の教授であると同時に、希代の科学エッセイストでもあった。かつて地球上では爆発的な数の生物の進化と淘汰が起こり、生き残っている種はほんの一部。人間が今ここに存在しているのは単なる偶然にすぎない。地球上になぜ我々がいるのか、そして科学的思考とは何かまで考えさせられる。前半はやや忍耐がいるが、乗り切ったときの後半の感動はすばらしい。

どんな人もアメリカ大統領から6人以上は離れていない。『スモールワールド・ネットワーク』(4)は、日本語でいう「世間は狭い」を検証したネットワーク科学の良書。人と人が見えないところでいかに繋がっているか。シンクロニシティはなぜ起きるのか。数学的知識も少しは必要だが、世の中を見る目が変わる。

歴史や文学を読むのは大切だが、それとは別に科学する心は必要。世の中や人生、社会の成り立ちに対する別の視点を得て、人生が豊かになる。