──日本経済はいまだにデフレから脱却できていません。アメリカもリーマン・ショック以来、経済が低迷しています。EUに至っては、崩壊の危機にあります。こうして見ると、資本主義そのものが行き詰まっているように感じますが、原因は何でしょうか?
中谷 巌●三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長。一橋大学名誉教授。多摩大学名誉学長。1942年、大阪生まれ。一橋大学経済学部卒業、日産自動車勤務の後、73年ハーバード大学経済学博士(Ph.D)。大阪大学教授、一橋大学教授、多摩大学学長、細川内閣「経済改革研究会」委員、小渕内閣「経済戦略会議」議長代理を歴任。著書『資本主義はなぜ自壊したのか』(集英社刊)、近著『資本主義以後の世界』(徳間書店刊)が反響を呼んでいる。

中谷 これまで資本主義が世界を席巻できたのは、いくつかのフロンティアを次々と征服してきたからです。

一つ目は、地理的フロンティア。これは西欧列強がアフリカやアジアを植民地化し、そこから収奪した富を基に、経済を発展させてきたということです。しかし、第二次世界大戦後、植民地が次々と独立して、この地理的フロンティアは消えました。

それから30年くらいは、日本やドイツを立ち直らせるという復興需要があったものの、気がつくとこの二国はアメリカを凌駕できるまでに成長していたわけです。

モノづくりでは勝てないと思ったアメリカは、グローバルな金融市場をつくり、デリバティブをはじめとする複雑な金融商品を生み出して、世界中に売りまくった。これが第ニのフロンティア、金融フロンティアでした。

ところが、それもリーマン・ショックで消失してしまいます。金融フロンティアの開拓も終わったということです。

もう一つ、昔から存在するフロンティアがあります。それは、自然フロンティアです。この第三のフロンティアも、環境問題が深刻化してきて、今までのように好き放題に、破壊・搾取ができなくなりました。

「地理」「金融」「自然」という3つのフロンティアがなくなったことで、資本主義は行き詰まっているわけです。フロンティアがなくなった資本主義国は仕方なく、経済を成長させるために、過大な財政支出に走りました。そのために、現在では先進諸国が国家債務危機に陥っているわけです。