昇進したがらない人は男女ともに増えている

【白河】女性管理職を増やすとなると、またひとつ壁がありますよね。制度を手厚くして働き続けやすくしても、女性はなかなか昇格したがらないという意識の壁です。IBMでさえ「停滞期」があったと聞きましたが、女性管理職増加に向けては、在宅勤務などの働き方改革だえでなく、本人の意識改革などには取り組んでますか?

日本IBM 代表取締役社長 山口明夫さんと少子化ジャーナリストの白河桃子氏
撮影=遠藤素子

【山口】管理職になりたがらない人は、女性だけでなく男性にも増えていますね。私自身、マネージャーになるよりもずっとエンジニアでいたかったので、その気持ちはよくわかります。人を評価するのが得意ではない人、部下を管理することに対して想像がつかない人、部下の人生を左右しかねない役割を負担に感じる人、いろいろいますよね。ですから当社では、候補者には管理職になることを強制するのではなく、1年ほどかけてじっくり対話しながら、管理職の楽しさや大変さを共有していくようにしています。

【白河】対話のプロセスは、何か制度としてつくられているのですか?

【山口】具体的には「W50」というプログラムを実施しています。2019年から続けていまして、女性管理職候補を年間50人選抜し、1年間、講義やディスカッションなどに参加してもらっています。期間中は一人ひとりにスポンサーがつき、本人の1年間での成長を支援しています。一番大切にしているのは、管理職への本人の共感ですね。管理職の役割や実態、楽しいことも大変なことも、オープンにしたうえで、「やってみようかな」と思ってくれるよう皆でサポートする──。役員から人事担当者まで、皆が「候補生のサポーター」という意識で取り組んでいます。

女性の管理職比率が停滞…改善のための施策

【白河】プログラムの開始前と開始後では、女性管理職比率はどのぐらい変わったのでしょうか。

【山口】開始前の約5年間は、ずっと13~14%ほどで停滞していました。それが、「W50」を初めて実施した年は参加者のうち約3割が管理職に昇進しました。その後も成果は上がり続け、昨年は参加した女性社員54名のうち約半数以上が管理職になりました。結果、女性管理職比率も18%にまで伸びたのです。

【白河】停滞期を乗り越える策のひとつが「W50」だったと。そのほかにも何か手は打たれましたか?

【山口】管理職の誰かに昇格や異動があった場合、後任の候補に必ず女性を入れるようにしています。昇進を議論する会議では「彼女にはまだ早い」という声が上がることもありますが、私としては「ならば彼女を管理職として成功させるにはどうすべきか」を議論したい。まだ若いとか経験が少ないとか、難しい理由を言い出したらキリがありません。そうではなく、いいところに目を向けて、そこを伸ばすための議論、着任した後どのようにサポートするかの議論をしようよと皆に呼びかけています。

【白河】やれない理由ではなく、やるならどうすればいいかという思考ですよね。他社のトップから、女性活躍推進についてアドバイスを求められることはありますか?

【山口】会食などで、「推進したいけど、IBMさんはどうしているの?」と聞かれることはありますね。そういうときは、男女にかかわらず、他者はすべて自分とは違う人なのだから、その人をよく見て、違う部分をいかに受け入れるかを考えるようにしています、とお伝えしています。とはいえ全社員を見られるわけではないので、具体策として「管理職のベンチ(後任候補)に必ず女性を入れるようにしては」などとお話ししています。