連載第2回目は、日本では意外に知られていない「大前本の海外での読まれ方」。活力あるインドで、中国で、大前さんの本を座右の書とする経営者は多い。

ドラッカーと私だけ

著作を通じて、海外で大前研一はどういう見方をされているのか。

私の海外の読者には、『企業参謀』の英訳版“The Mind of The Strategist”(1982年)を教科書代わりに学んだという人が非常に多い。英語版から各国語に訳されて世界中で刊行されているこの本を読んで、私を企業戦略分野の専門家だと思っている人がかなりいる。

90年代半ばにインドのバンガロールで、今をときめくインドのグローバルIT 企業インフォシス社の初代会長ナラヤナ・ムルティと初めて会った。そのときに後継者として紹介されたのが二代目会長のナンダン・ニレカニだ。彼が「この本が私を変えた」と言って見せてくれたのは、擦り切れるまで読み込んでボロボロになった“The Mind of The Strategist” だった。黄色いマーカーでラインが引かれ、いろいろな書き込みがしてあった。

経済のグローバル化という時代の大きな変化を予見して89年に著したのが“The Borderless World”である。本書は“The Mind of The Strategist”とともに英紙ファイナンシャルタイムズの「歴史上の経営書トップ50」に選出された。ちなみに2冊がランクインした著者はP・F・ドラッカーと私だけだ。

「グローバリゼーション」という言葉を初めて使ったのが『ボーダレス・ワールド』であり、この著作から私をボーダレス経済論者と呼ぶ人も結構いる。海外で講演するときには、そうした言い方で紹介されることが多い。

さらに、そのボーダレス・ワールドにおいて栄えるのは国民国家ではなく地域国家であるという考え方で著したのが『地域国家論』(原題“The End of The Nation State”、95年)だ。

150年続いた国民国家の時代は終焉し、これからは地域国家がホームレスマネーなどの資金を世界から呼び込む単位となり、繁栄していく――。日本の統治機構を変革して道州制を導入すべしという私の提言のベースにある思想であり、アカデミズムの世界でも私はUCLAの政策学科で地域国家論の講座を持っている。こうしたことからリージョン・ステート、地域国家の提唱者と見られる向きもある。