経済の長期停滞、財政破綻、少子高齢化……、今回の東日本大震災が駄目出しとなり、過剰なまでに悲観的になった日本。カネ、子ども、エネルギーが不足する日本社会に対する処方箋を、欧州を代表するこの著名な知識人に聞いた。

トッド氏は、1976年の著書『最後の転落』でソ連の崩壊を予言し、2002年の『帝国以後』では、リーマン・ショック以前にもかかわらず、アメリカが衰退期に入ったと断言し、世界の注目を集めた。さらに07年の『文明の接近』では、西洋文明とイスラム文明は対立するものではなく、両文明は接近するのだと主張し、今年の「アラブの春」と呼ばれる民主化を言い当てた。

このようにトッド氏の予言は、彼の表現を拝借すれば、「壊れた時計でも1日に2度は時刻が合う」といった偶然の産物ではない。トッド氏の予言を支えるのは、識字率、出生率、いとこ同士の婚姻率に関するデータである。つまり、すべては、人々の変化を、人口学、人類学、歴史学というツールを使って学術的に分析した結果なのだ。

核兵器よりも原発のほうが危険

<strong>エマニュエル・トッド</strong> Emmanuel Todd●1951年、フランス生まれ。パリ政治学院卒業後、ケンブリッジ大学で博士号を取得。フランス国立人口統計学研究所(INED)に所属。弱冠25歳にして、『最後の転落』で乳児死亡率の上昇を論拠に旧ソ連の崩壊を断言。アメリカの衰退を指摘した『帝国以後』は28カ国以上で翻訳された。
エマニュエル・トッド Emmanuel Todd●1951年、フランス生まれ。パリ政治学院卒業後、ケンブリッジ大学で博士号を取得。フランス国立人口統計学研究所(INED)に所属。弱冠25歳にして、『最後の転落』で乳児死亡率の上昇を論拠に旧ソ連の崩壊を断言。アメリカの衰退を指摘した『帝国以後』は28カ国以上で翻訳された。
――日本の衰退は「3.11」の東日本大震災以降、決定的になったのでは。

私は大の親日家です。今回の東日本大震災の惨状には、強烈な精神的ショックを受けました。亡くなられた方々、被災者の方々のことを思うと、本当に心が痛みます。

どうしても現地を訪れたいという思いにかられ、8月はじめ、東北地方に1週間ほど滞在しました。福島第一原発からわずか25キロメートルの福島県南相馬市にも行きました。そのときの印象についてはコメントしません。なぜなら簡単に語れる内容ではないからです。

ただ、放射線という「人間の感覚では捉えることのできない恐怖」を感じたことは告白しておきます。今回の震災および原発事故は、日本人だけでなく、我々フランス人を含めた世界中の人々に大きな衝撃を与えました。

地震や津波による今回の被害は、日本の産業力や技術力の観点から見れば、十分克服できるレベルです。ですから、日本が衰退期に入ったとは、まったく思っていません。ただし、福島第一原発事故の影響については、原発周辺の放射線による汚染は、かなり深刻だと感じました。