女性の「一家を支える意識」が夫のストレスを下げる

しかし、こうした状況はデメリットも生み出します。「働かなくても家計を自由にできるなら働きたくない」と考える人が多ければ、女性の社会進出の伸びは頭打ちになってしまいますし、そうなれば男は仕事、女は家庭という旧態依然とした意識が、いつまでも残っていくことになります。

日本では、女性はたとえフルタイムで働いていても、自分の所得が家計を支えているという感覚が男性に比べて薄いとされています。専門的には「生計維持分担意識」と呼びますが、家計における妻管理型は、これに拍車をかけていると言えるでしょう。

海外のように家計を共同管理型にすれば、こうした分担意識は徐々に薄れていくはずです。これには、女性の社会進出以外の点でもメリットがあり、妻が「私の稼ぎも(夫とともに)一家を支えている」と考えている家庭では、夫のストレスが低いということが研究から示唆されているのです。

稼ぎ手であることにストレスを感じる男性は少なくありません。そうしたストレスを分散させる意味でも、共同管理型は非常にいい方法だと思います。

時間をかけて共同管理型へ

今後、日本の家計管理のありかたは変わっていくのでしょうか。今のところ、夫管理型や共同管理型へと変わるような要素は見当たらず、家計も含めて完全に財布を別にする「個別型」も7.1%と少数派。今後もそれほど普及するとは思えません。

しかし、個別型は海外でもそれほど多くはなく、やはり共同管理型が主流になっています。日本が変わるとすれば、私はこの共同管理型へと時間をかけて進んでいくのではと考えています。

互いの収入の一部を家計に入れて一緒に管理し、残りは共有資産としてプールしたり、自分専用の財布に入れたりしていく──。そうした夫婦共同で財布の紐をにぎる形が、共働き家庭において普及することを期待しています。

構成=辻村洋子

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授

1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。