新型コロナウイルスの影響で自動車業界は危機にある。だが、トヨタ自動車は直近四半期決算で黒字を計上した。なぜトヨタは何があってもびくともしないのか。ノンフィクション作家・野地秩嘉氏の連載「トヨタの危機管理」。第6回は「常在危機の生産現場」――。
2020年、4月29日、フランス・ヴァランシエンヌのトヨタ工場でフェイスマスクを着用した作業員が作業を行っている。ヴァランシエンヌのトヨタ工場では、4月23日から流行の予防のための取り組みを行い、生産を再開している。
写真=Avalon/時事通信フォト
2020年、4月29日、フランス・ヴァランシエンヌのトヨタ工場でフェイスマスクを着用した作業員が作業を行っている。ヴァランシエンヌのトヨタ工場では、4月23日から流行の予防のための取り組みを行い、生産を再開している。

製造業の現場で在宅勤務はできない

危機になると、常日頃から行っているトヨタ生産方式は生きてくる。リーン(引き締まった、ムダがないの意)な生産体制だから、部品調達をフレキシブルに行う素地ができている。たとえば、他社が2週間分の部品在庫を持っているとする。トヨタならばラインそくの在庫は数時間分だ。つねに緊張感を持って部品を調達している。

「ここがダメなら、あそこから買う」といった変化に慣れている。

もうひとつは顧客志向の考え方だ。トヨタ生産方式にのっとって仕事をしていれば協力会社のありがたみが身に染みてくる。部品の7割を外部に依存しているトヨタは協力会社、販売会社、地域、社会がなくては存続できないとちゃんと理解するようになる。

だからこそ、トヨタの人間は危機になると地域や社会に対して支援を実行する。

トヨタ生産方式という日常は危機に強い体制を作る基礎だ。

長くトヨタ生産方式を広めるセクションにいたチーフ・プロダクション・オフィサーの友山茂樹は「トヨタ生産方式は危機に俊敏に対応するものだ」と語る。

「新型コロナ危機はこれまでの災害危機、経済危機とは少し様相が違いました。災害であれば工場の壊れた設備を直せばいい。経済危機で車が売れなくなったら、販促策を打つという手がある。今回は本当に見えないウイルスが敵で、人流、物流とも止まってしまった。しかも、会社に出てはいけない。製造業の生産現場は在宅勤務なんかできないんです。そして、それがグローバルに一斉に起きた……」

ストックが少ないから足りないものがすぐわかる

「トヨタ生産方式はリーンな生産体制です。今回は、完成車、調達部品ともパイプラインをにらみながら、生産の対策本部で、『つなぐ』仕事をする毎日でした。

危機の際の原則は、売れる地域の売れる商品を作れるところで作る。これは部品でも同じ。ただ、これが結構難しい。膨大なサプライチェーンがあるわけですから。

例えばフィリピンで作っていた通信系の機器がネックになり、その代替生産をする場所と国を探してつなぐのがいちばん大変でした。他社が2週間の部品を持っているとしたら、うちは仕入先在庫を含めてもせいぜい3日分しかない。3日後の生産を今日決めるという感じが続きました。