意外と大きい「住まい」の問題

さて、二つめの問題は「住まい」です。日本では長く職住分離が主流だったため、住宅は暮らしに重点を置いたつくりになっていることがほとんど。実際、在宅勤務が始まって初めて、「自宅は仕事場に向いていない」という事実に気づいた人も多いのではないでしょうか。ワークスペースがなかったり、家族がいて集中できなかったりして、わざわざシェアオフィスを借りた人もいると聞きます。

住宅メーカーの調査でも、リビングやダイニング、家族と共用の個室などで仕事をした人が多いという結果が出ています。ただ、一口に在宅勤務と言っても、個室の必要性や求める設備条件などは業種によって多種多様です。そう考えると、今後住宅メーカーは「暮らす」だけでなく、さまざまな業種の人の「働く」にも対応できる、柔軟な住まいづくりをしていかなければなりません。

快適に生活できるだけでなく、多様な在宅勤務の形に対応できる柔軟な家。あるいは共用オフィスやコワーキングスペースを設けたマンション。こうした職住融合に適した住まいの需要は、今後ますます増えていくと思います。

「家事分担問題」は、よりシビアになる

三つめは夫婦間の家事分担問題です。これは職住の融合が進むにつれ、さらに大きな問題になっていくと思われます。少し前は、男性は外で働き女性は家庭内にいる形が主流でしたが、在宅勤務の割合に関しては男女で逆転現象が起きているようです。

これは、女性は対人サービスのパートタイムや、介護や保育といったケアワークなど、現場に居合わせる必要がある仕事に就いている割合が高く、逆に男性は在宅勤務をしやすい職種に就いている割合が高いためです。その結果、「夫婦のうち、家事スキルが低いほうが家にいる」というミスマッチが起きています。これも大きな転換の1つです。

最近は家事をする男性も少し増えてきたとはいえ、まだまだ妻に丸投げ状態の人も少なくありません。夕方6時、妻がやっと仕事が終わって帰宅しようという時に、家にいる夫から電話で「今日の夕食は何?」と聞かれたら、家にいて仕事が終わってるのなら食事の支度ぐらいしてよと思うのは当たり前ではないでしょうか。これでは妻の不満はたまっていくばかりです。

在宅勤務の割合が男女で逆転していることを考えると、これからは日本の夫婦の家事負担バランスも変わっていくべきでしょう。この点に、多くの男性が気づいてくれるよう期待しています。

企業は仕事中の家事を認める裁量を与えるべき

最後に、職住の融合が進むと会社側にも意識の変化が求められます。在宅勤務では、会社が細かく時間割を決めたり監視したりすると不要なストレスを招きかねません。仕事の合間に家事をする、夕食後に仕事をするなど、フレキシブルな働き方を最大限認める姿勢が大事です。実際、人間は仕事の裁量権があると仕事のストレスが大幅に減るという研究結果も出ています。

コロナウイルスの収束がいつになるか不透明なこともあり、今後も職住の融合は進んでいくでしょう。企業も働く側も、新しい環境にあった新しいマインドセットを身につけていってほしいと思います。

構成=辻村洋子 写真=iStock.com

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授

1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。