女性はワンアクション、男性はツーアクション

胸骨と肩甲骨をジョイントして、腕を支える鎖骨は、横にスライドするのと、縦に回転するのと、2つの動きを持っている。この2つを組み合わせて、腕のさまざまな動きを可能にしているのだ。

実は、男女では、鎖骨の使い方が少し違っているのだという。女性は、鎖骨をスライドして使うほうを優先する人が多く、男性は鎖骨の回転を優先する人が多い。なので、所作が違う。スポーツトレーナーにそう教えてもらって、世の男女を眺めてみると、たしかにその傾向があるのである。

女性は、鎖骨を横にスライドして腕を出し、一筆書きを描くように、ものを取る。肩の下で、静かに腕が動くのである。かなりガサツな女性でも、ものをがしっとつかみ取る感じにはならない。

一方男性は、鎖骨を回転させて、ものを取る。腕を前につき出し、それを戻す運動になる。的確に狙って、つかみ取る感じがする。

レストランで観察していると、ウェイターさんは、テーブルに正対して、前に腕を伸ばし、最短距離で狙ったようにものを置くかたちが主流だが、ウェイトレスさんは、テーブルに横向きに身体を接近させて、横に腕を伸ばし、流れるようにものを置くかたちが主流である。訓練によってどちらも使えるので、百パーセントじゃないが、おおまかな傾向は出る。

所作の違いは、脳の認知の違いでもある。

女性の所作は、流れるようなワンアクションなので、鋭角に「行って、帰る」ツーアクションの男性からしたら、認知しにくいのだ。

「夫は気が利かない」は濡れ衣である

つまり、夫の脳では、妻の所作が網膜に入るが、風景のように見流しているのである。目の前にいて、妻がおむつを替えている風景を眺めていても、「子どもがごろんとなったから、お尻拭きに手が届かないで、妻が困っている」というようには認知できない。

まるで、カフェに座って、外を走る車を眺めているようなもの。目の端には入っていても、車が今、車線変更をしたなんて、認知していないでしょう? あれと同じなのだ。

興味がないからではなく、所作が違うから。ちなみに、ワンアクションの女性からしたら、ツーアクションの男性の所作はわかりやすい。妻は夫の所作を察して、手を添えられるのに、夫にそれができないという関係だから、いっそう、愛情の欠如や、気の利かなさに思えてしまうのだろう。

というわけで、「夫は気が利かない」は、濡れ衣である。

見えていないのなら、言うしかない。

お尻拭きに手が届かなかったら、「お尻拭き、取って」と言えばいい。ゴミを早く捨ててきてほしかったら、「今日、ゴミの日だよね。雨が降るかも」なんて謎かけをしていないで、「雨降りそうだから、早く捨ててきて」と、きっぱり言えばいい。「あんなことがあって、こんなことがあって」とグズグズ言わずに「落ち込んでるんだ。優しいことば、一発ちょうだい」と言えばいい。

察してくれないと恨んだり、気が利かないと嘆いたりする時間がもったいない。若妻のそれは、かわいいときがあるんだけどね。