真っ暗な地下空間の「とう道」に張り巡らされた通信ケーブル。電話やインターネットなど、生活に欠かせないインフラ設備を守るのが通信建設業界の大手・日本コムシスの石川柚希さんの仕事だ。作業員を監督する難しさにどう対処しているのか?
石川柚希●埼玉県出身。日本大学理工学部修士課程を修了。2015年、日本コムシスに入社。基盤システム部、都市土木グループを経て現職。とう道補修工事およびマンホール撤去、新設工事に従事。

初めての地下「私の知らない世界がここにあるんだ」

7月某日。重い鉄扉を開けてトンネルの中に入ると、ひんやりとした空気が流れていた。

坑道内は少し埃(ほこり)っぽく、染み出た地下水による水たまりが所々にある。まとわりつくような外の暑さが嘘のように涼しい。白熱灯の列が真っ直ぐに続き、換気扇の回る音だけが轟々(ごうごう)と響いている。

東京・東陽町にある建物の地下――厳重に施錠された二重のドアを通り、地下へ向かう入り口をさらに抜ける。そこからどこまでも続くこのトンネルは、「とう道」と呼ばれる巨大地下施設だ。

Essential Item●ヘッドライトつきヘルメット、手袋、5.5m曲尺、耐水タイプの測量野帳。赤い表紙が気に入っている。

石川柚希さんの勤務する日本コムシスは、主に通信設備工事などを担う通信建設業界の大手である。事業内容の1つにこの「とう道」の設備工事があり、現在、彼女はこのトンネル内の補修工事を担当している。

壁面には何本もの通信ケーブルが延び、その一本一本が途中の管路に枝分かれした後、電柱などにつながっていく。都内に網の目のように張り巡らされたその総延長距離は約290kmにも及ぶ。

「初めて『とう道』に入ったときは、ジブリの映画の中に迷い込んだようでした。『私の知らない世界がここにあるんだ』って。普段、私たちが見ている外の世界と同じように、この地下にもたくさんの人が働いている現場があるんだと思いました」