機械式時計の機構開発が成熟しつつある。その中で“時計の肝は機械にあり”とでも言わんばかりにムーブメント開発に取り組み、機械技術の力量の差を見せつけるのがA.ランゲ&ゾーネだ。スマートウォッチの台頭、メンテナンスフリーに向けた開発が熱を帯びるなど、腕時計を取り巻く環境が変わりつつある現在をどう捉え、この先どんな道を歩むのか。ヴィルヘルム・シュミットCEOに聞く。

真のマニュファクチュールは“一体型”を目指し始めた

「ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン」。コラムホイール式のフライバッククロノグラフ、永久カレンダー、トゥールビヨン(ケース裏側)の3つの複雑機構を効率的に統合したキャリバーL.952.2を搭載。そのほか122年半で1日の誤差という高精度ムーンフェイズ、パワーリザーブ表示、ストップセコンド機能などの付加機構を備える。●Pt。ケース径41.5mm。手巻き。アリゲーター・ストラップ。29万5000ユーロ(参考価格)。世界限定100本。

フェルディナント・アドルフ・ランゲが1845年に創業したA.ランゲ&ゾーネは、戦後東ドイツ政府に接収されいったんは時計製造の歴史を閉じるものの、東西ドイツ統一後に創業者から4代目に当たるウォルター・ランゲがブランドを再興する。1990年のことだ。4年後の94年には新会社初となる「ランゲ1」「アーケード」「サクソニア」「トゥールビヨン“プール・ル・メリット”」の4コレクションを発表。以後、A.ランゲ&ゾーネは毎年新機能を盛り込んだ新作を開発し、いまではダトグラフ(クロノグラフ)、ラトラパント(スプリットセコンド*)、トゥールビヨン**、永久カレンダー***、ミニッツリピーター****など、複雑機構全般をカバーするに至った。

*スプリットセコンド……2本のクロノグラフ秒針によって複数のラップタイムを計測できる機構
**トゥールビヨン……精度を大きく左右するテンプをキャリッジ(カゴ状の部品)の中に収めて回転させることで、重力によって生じる歩度の誤差を低減する機構
***永久カレンダー……西暦2100年まで修正が不要なカレンダー機構。うるう年も表示する。
****ミニッツリピーター……異なる2つの音色の組み合わせで時・15分・分を区別して時刻を告知する機構

そのA.ランゲ&ゾーネがこのところ新作発表にあたって強調するのが、「メカニカル・マスターズ」という言葉だ。意図するのは“複数の複雑機構を論理的・効率的な設計によってスムーズに連動させる”こと。つまり、いくつかの複雑機構を一つのムーブメントに併載する場合、ただ単純にモジュールを積み重ねていくだけでは動力の伝達効率が低く、正常な作動がおぼつかない可能性がある。各機能がスムーズに連動するよう、より簡潔に、より効率的に製作してこそ「マスターズ」というわけだ。

2016年、その最初の発露として、3つの複雑機構と5つの付加機能を効率的に統合した「ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン」を発表。さらに2017年にはベースムーブメントに永久カレンダー機構を組み込んだ一体型のキャリバーを開発し、それを載せた「トゥールボグラフ・パーペチュアル“プール・ル・メリット”」を世に送り出した。

「トゥールボグラフ・パーペチュアル“プール・ル・メリット”」。ランゲではトルクを安定させるチェーンフュジー(鎖引き)機構をブランド再興直後から製作しており、その機構を備える時計を“プール・ル・メリット(有功勲章の意)“と呼んでいる。このモデルはその第5作目。鎖引きのほか、トゥールビヨン、クロノグラフ、スプリットセコンド、永久カレンダーを搭載。薄型化、動力効率化のため永久カレンダー機構をベースムーブメントに組み込んだキャリバーL133.1(写真右)を備える。●Pt。ケース径43mm。手巻き。アリゲーター・ストラップ。48万ユーロ(参考価格)。世界限定50本。

一体型キャリバーは機構がシンプルになる分、動力の伝達効率が上がり精度アップも期待できるが、設計・製造面での難易度が高くこれを製造できるブランドは多くない。マニュファクチュール(自社一貫生産体制を持つメーカー)の中でも、名もあり実もある一部のブランドがこの一体型キャリバーを開発し発表し始めているが、その一つがA.ランゲ&ゾーネである。