企画書が売りものであり武器だという女性役員、一日に何十もの決裁文書に目を通す経営者……。彼らが評価する資料の基準とは?
博報堂・執行役員 中尾文美●1996年米ウェルズリー女子大学卒業、博報堂入社。営業職、コンサルティング職などを経て、夫の赴任でパリへ移住。海外居住中も博報堂の仕事を続け、2015年7月にグローバルビジネス担当執行役員に就任。

企画書を見るときはまず、書き手の意思を見ます。リサーチ結果や他人の意見をまとめた情報共有の資料なら、誰が作っても同じ。付加価値がありません。私たちにとって、企画書こそが売りものであり、勝負をかける武器。何をしたいのか、何を提案しているのかという「アクション」に直結していないと、武器になりえません。

もちろん見た目も重要ですが、それは後でブラッシュアップできます。でも、魂がこもっていないものはどうしようもありません。浅くて中身のない企画書になってしまいます。ですから資料に落とし込む前に、「意思」の部分をしっかり練り、意識合わせをするようにしています。企画書が形になった段階で却下することはほとんどありません。「もう少し、こんな表現・見せ方にしたほうが、うまく伝わるのでは」という話をするくらいです。

私たちの企画書はクライアント企業の社内で、宣伝部や広報部、秘書室、社長など、単独で“旅”をします。プレゼンや説明による補足がなくても、私たちの意思が明確に読み手に伝わらなくてはなりません。昔、先輩に「2分で説明できない資料はダメだ」と言われました。読んだ人がすぐに、「○○という提案なんだね」とポイントを説明できるようでなければ、単独の“旅”に耐えられません。

良い資料は、使う言葉も厳選されています。たった一つの言葉にたどり着くまでに、膨大なリサーチや議論を経ています。限られたスペースに盛り込む言葉に、無駄があってはいけません。

無駄な言葉が多くて意思が伝わらない、ぶよぶよしてつかみどころのない「デブな資料」はダメですね。デブな資料は、自分勝手で自分中心な資料。だらだらと整理されておらず、ポイントがわからないので、読み手の時間を無駄遣いさせてしまい迷惑です。

私は今でも資料は作っています。自分自身も普段から現場で戦っていないと、センスが鈍ってしまう。また、ほかの人に指示やアドバイスをするうえでも、資料の作り手の気持ちがわかっていないと、どうしたらよくなるかが、うまく伝わらないと思います。ですから時々、自分で資料を書いてチームの人に見てもらい、意見を求めます。そうすることで、チーム全体で企画書のレベルを上げたいと思っています。

▼良い資料の条件
1. 魂がこもっている
2. 2分で説明できる
3. アクションに直結する


プレゼンの機会が与えられず、資料だけを提出することも。その場合でも意思が伝わるようにするには、この3つの条件は欠かせない要素。

構成=大井明子 撮影=貝塚純一