ハウスメーカーが創意工夫を凝らすモデルハウス。それらが集まる住宅展示場には「家づくりのヒントがたくさん詰まっている」と住生活ジャーナリストの田中直輝さん。上手な展示場の利用法をうかがった。

住宅展示場めぐりのメリットは
住まいを見る目が肥えていくこと

住宅展示場は、家を建てようとする人が行く所、当面その予定がない自分とは無縁の場所だ。そう思う方が意外と多いようです。あるいは、営業マンにつきまとわれたら嫌だなと思い、敬遠する方もいるのではないでしょうか。けれど、まずは先入観を取り払って、住宅展示場に足を運んでみてほしいと思います。

というのも、そこには「自分がどんな暮らしを望んでいるのか」を具体化するヒントやアイデアが、たくさんあるからです。

例えば、今の住まいのインテリアを変えたいときなど、プロが手がけるモデルハウスのインテリアはとてもよい参考になります。実物を見て触れられるのですから、雑誌やネットで見るのとは違い、質感や空気感までもくみ取れるのが利点です。

ほかに、今の住まいで困っていることや不満なところが、モデルハウスではどう解決されているかを見てみるのもよいでしょう。キッチンのレイアウトや動線、収納の工夫など、見どころはいろいろあると思います。多少なりとも、そのように意識して展示場のモデルハウスをめぐると、住宅を見る目がだんだん肥えていきます。

この「目を肥やす」ことが、実は将来の家づくりやハウスメーカー選びの重要な素地になります。

家づくりは、自分と家族が望む暮らしを形にしていく作業です。住みたい家のイメージを具体的に持っておくことが大切なのですが、そのイメージづくりの手助けになるのがモデルハウスです。

「家を建てる計画がない方でも大歓迎」と話すモデルハウスの営業担当者も数多くいます。見るだけなのか、何か知りたいことがあるのかをはっきりさせれば、むやみにつきまといもしません。「もし、自分がこの家に住むとしたら」と想像力を働かせ、好みに合う空間や設備、デザインをピックアップしていく。そのイメージづくりが、理想の家にたどり着く出発点になります。

住む家と暮らしを考える参考例として
目的意識を持ってモデルハウスを見る

住生活ジャーナリスト
田中直輝さん
早稲田大学教育学部を卒業後、海外17カ国を一人旅。その後、約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当し、取材活動を行う。現在は、「住生活ジャーナリスト」として戸建てはもちろん、不動産業界も含め広く住宅の世界を探求。All Aboutで「ハウスメーカー選び」のガイドを担当している。

住宅展示場のモデルハウスは、敷地が大きく、屋内空間もゆったりと余裕をもってつくられています。オプション装備も豊富に取り入れられた豪華版であるのは周知のこと。注文住宅で家を建てるとなれば、それを参考例として、土地や予算に合わせた実現可能なプランを提案してもらうことになります。

ハウスメーカーによって建物の構造も異なれば、得意な領域や他社にない特色もそれぞれに持っています。プランづくりでは、家に求める機能に優先順位をつけ、そのメーカーに何ができて、何ができないかを見極めながら、住む家と暮らしのイメージを固めていくプロセスが大切になります。

一般に家を建てようとする場合、ネットやパンフレットの情報からメーカーを数社に絞り込み、モデルハウスでその内容を確認するというパターンが多いようです。しかし、私はもう少し多角的な見方も加えてほしいと思います。

住宅展示場の良さは、特色やテーマ性を持たせた住宅の実物を、比較対照して見られるところにあります。一方、家を建てるとなると、外観・外構、間取り、各種設備から収納にいたるまで、ひとつひとつをこと細かに決めていかなければなりません。

ですから、候補メーカーばかりではなく、それ以外のメーカーではどうなっているかを見比べておくこともおすすめします。

例えば今回は間取りを中心に展示場めぐりをしよう、次回は収納でというふうに、目的を持って出かけましょう。共働き世帯のための住まいの工夫には、どのようなものがあるのかといった見方もよいと思います。

住む家のイメージづくりで大切なのは、どういう暮らしを望むか、そのためにどのような機能がほしいのかを明確にしていくことです。「こうしたい」がはっきりしていれば、メーカー側が工夫をし、プラスアルファのプランを提案してくれることもあります。

人を見る場でもある住宅展示場
メーカー選びはパートナー選び

住宅展示場は、家を見る場所であるばかりではなく、人を見る場でもあると私は考えます。すなわち自分と気の合う営業担当者と出会えるかどうかです。ハウスメーカー選びで、この点は見落としがちなところです。

先にも述べたように、家を建てるには細かな取り決めを積み重ねていかなくてはなりません。プランづくりから引き渡しまでの長い時間、メーカーの各部署とやりとりすることになりますが、その窓口が営業マンです。気の合う人と「一緒に家づくりをしている」という実感がないと、完成した家に満足感が持てないケースも往々にしてあります。

ハウスメーカー選びは、家づくりのパートナー選びでもあるのです。このメーカーで決めたいけれど、営業担当がどうも性に合わないという場合、その旨を申し出れば担当者を替えてもらうこともできます。

また、建てた家の将来を考えておくことも家づくりのポイント。ハウスメーカーとの重要な相談事項だと思います。例えば、夫婦と子供2人の4人家族用に建てた家で、子供たちが巣立ったあとの空いた空間をどう使うか。今は別居している両親をいずれは引き取ることになるかもしれないとか、どの時期に建て替えや売却を考えたいなど、それらの将来像も当然、今現在の家づくりと密接にかかわってきます。

さらに、家は住み続ければ傷んできますから、メンテナンスも考えておかなければなりません。近年、住宅メンテナンスの長期にわたるサービスプログラムが充実してきています。しかし、その期間や内容、費用や対応の仕組みなどはメーカーごとに違いがあります。それらも比較検討しておく必要があります。

住宅は高価な買い物といわれます。しかし、車や家電品を買うのとわけが違い、その内実は施主自らがメーカーの手を借りてつくり上げていくものです。時間と手間がかかりますし、知識も必要になります。しかし、肩ひじを張って臨むこともありません。休日、散歩がてらに住宅展示場を訪ねることから始めましょう。わからないことや、疑問があれば何でも臆せずに聞いてみましょう。その答えが納得のいくものかどうかがメーカーへの信頼度を測る鍵。住宅展示場へ足を運ぶ意味の、最も大きな部分だと思います。

(鶴田孝介=撮影)