12kgのケースも運び、女だからと言わせない

そこで彼女が力を注いだのは、工程や機械の内容や管理方法を自ら聞き、機械の説明書や仕様書を読み込み、仕組みを深く理解すること。

「幸いにも工学部の出身だったので、操作がわからなくても理解できることが多かったんです。操作がわからなくても、仕組みがわかっていれば何かあったときに意見が言える。そうやって知識を蓄えたことは、いまでもすごく役立っています」

香り、色などを含め、実験室で毎日製品のチェック。気温や機械の状態などによって日々少しずつ異なる条件の中で、同じ品質を保つために細かな確認を怠らない。

また、仕事中は挨拶と笑顔を欠かさない。12kgあるケースの積み降ろし作業も積極的に手伝うこと。

騒音が絶えない工場内は耳栓をしなければならないほどで、夏に大変な暑さになる場所があれば、冬の寒さがこたえる作業もある。ラインで働く従業員たちから現場の苦労や意見を丁寧に聞くうちに、彼女を見つめる周囲の目は「骨のある奴だな」というものに変わっていったという。

「それは工場に配属された新人社員が、必ず通っていく道でもありますね。誰もが一人ひとり、周囲に自分の能力をわかってもらう努力が必要なんです。そうして初めて、仕事を任される存在になっていくのですから」

そして、「初の女性エンジニア」として工場で働く彼女にとって、最も大きな体験となったのは最初の産休・育休を取得するときのことだろう。会社には制度は当然あったが、彼女より以前にそれを利用した者がいなかった。

「産休や育休を取得した後、自分がどんなふうに働いていきたいか。これまでと同じであることを望むのか、それとも働き方を変えるのか。人事部の担当者も初めての事例なので、希望を細かく聞かれ、自分の思いを伝えました」

学生時代から、結婚や出産で仕事を辞めるという選択肢は考えていなかった。だが、その思いは漠然としたもので、実際に人事部と話をして初めて、曖昧だったキャリアに対する希望が言葉になっていったという。