ブルボンヌさん(女装パフォーマー)、光浦靖子さん(タレント)、松本晃さん(カルビー会長兼CEO)が、交代でお悩みに回答する本連載。仕事や私生活でモヤモヤしていることを一緒に解決してくれます。今回の回答者は松本晃さんです。

【今回のご相談】
オックスフォード大学の学者が書いた論文で、私の仕事(経理)と夫の仕事(不動産仲介業)がどちらも「ロボットや人工知能の発達により、10年後には消える」とされていました。夫婦そろって失業したら……と思うとゾッとします。自分の市場価値がなくなる前に、今から「消えない職業」に転職したほうがいいということでしょうか。[34歳・ハウスメーカー・CACAO]

わからない未来を案ずる暇があるなら学びましょう!

私が子どもの頃、新聞でよく電話交換手を募集していました。ところが電話交換機の導入が進むと、交換手はどんどん減り、やがていなくなりました。

松本 晃●1947年京都府生まれ。京都大学大学院修了後、伊藤忠商事に入社。ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人社長、同最高顧問などを経て、2009年よりカルビー代表取締役会長兼CEO。

たしかに、機械ですんでしまう仕事はあるし、ビジネスというのは常に新陳代謝を繰り返している。一部の仕事や職種がなくなることは、誰にも止められません。

しかし、何でもかんでも機械に置き換わるわけじゃない。私は現時点においては、経理の仕事が人工知能にとって代わられるとは思いません。ただ、あなたの経理の仕事が、10年後にレベルアップした内容に変わっている可能性は大いにあります。たとえば、これまでは帳簿だけつけていればよかったのが、次第に財務の仕事も任されるようになるかもしれません。

不動産仲介の仕事はどうか。インターネットを使えば情報はいくらでも集められるから、町の不動産屋に足を運ぶ人は減るかもしれない。しかし、パソコンの画面だけで不動産を簡単に買うことはない。やっぱり直接行ってその物件を見ないことには始まらないわけです。そして実際に見た人は、「こんな家具が欲しい」「こんな設計がいい」と、住むことに対してどんどん関心が高くなっていく。そういうニーズをとりまとめて、コーディネートするのは人ですね。検索までは機械、そこから先は人。これからは機械+人の時代になっていくでしょう。ただし、コーディネート能力が高い人でないと、生き残れなくなるかもしれませんね。

経理の仕事も、不動産の仕事もなくなりはしないけれど、変わっていくはずです。その変化をいかにして先取りするかが大事ですね。でも、世の中には先取りの得意な人がいるので、その人についていったらいい。イノベーターになるのは難しいけれど、フォロワーなら、特別な才能がなくてもなれます。

この先10年で技術がどれだけ進むかなんて、ほとんどの人にはわからない。そのわからない未来を案じて、「自分の仕事がなくなる」なんていうのは、“杞憂(きゆう)”ですよ。そんな心配をする暇があるなら、勉強しましょう。いつも大きく目をあけて世の中の動きを見ましょう。世の中の変化に敏感になって、いろんな知識をつけ、教養を磨き、技能を上げる。自ら学び、変わろうとしない人は、どんな仕事をやっていても時代に取り残されてしまいますよ。

中津川詔子=構成 冨田寿一郎=撮影