一方、IT企業のビジネス・インフラであるネットワークの構築、維持に必要なコストは、利用者が増えてもそれほど増加しない。このためIT企業の潜在的な利益は、利用者の増加に伴って急拡大していくことになる。これを経済学の世界では収穫逓増モデルと呼ぶが、株式市場では、収穫逓増モデルによって得られる将来の利益を一気に先取りしてしまうことになる。画期的なイノベーションを提供する企業に途方もない株価が付いてしまうのはこうした理由による。

これは時代を遡っても同じであり、かつての鉄道株や自動車株、ITバブル時の関連企業株には途方もない株価が付いた。20年代末のGM(ゼネラルモーターズ)の株価は20年前に比べて約200倍に、時間差をおいて日本に自動車ブームが到来した60年代にはトヨタ自動車の株が20年で65倍になっている。パソコン向け半導体最大手であるインテルの株価は90年から00年にかけて70倍近くまで高騰した。各社とも株価が上昇しているときには、期待値だけを背景にしたバブルといわれたが、結局、鉄道や自動車、パソコンというイノベーションは社会に定着し、その後も莫大な富を生み出している。GMの株価もトヨタの株価も、現在の水準から見れば、特に割高なわけではない。

つまり、当初はバブル的に見えても、そのテクノロジーが社会に普及すれば、株価は最終的には妥当性のある水準とみなされることが多いのだ。

長期的な市場のトレンドが大転換している可能性が高いという点や、新しいイノベーションの登場が長期的なトレンドを後押しするという歴史的事実をふまえたとき、わたしたちは、今後どのような視点で投資やビジネスを進めていけばよいのだろうか?

筆者は、これからの10年を象徴するキーワードは「インフレ」と「人工知能」であると考えている。

日本経済はいよいよデフレから脱却し、長期のインフレ局面に入った可能性が高い。もっとも、インフレになることが日本経済にとって必ずしもバラ色の未来であるとは限らない。日本円は相対的な国力の低下に伴って長期的な通貨安トレンドに入った可能性が高く、深刻な日本の財政状況を考え合わせると、将来、金利の上昇とインフレの進行が一気に進む可能性もある。

円安が進み、輸入物価が上昇すれば、日本は否応なしにインフレにならざるをえなくなる。もしインフレが進めば、仮に実質的な経済成長が低水準でも、名目上の株価や不動産価格は上昇を続ける可能性が高く、もしかすると現在の株高は、こうした状況をすでに織り込みはじめているのかもしれない。インフレ時代に現金の保有は大敵であり、資産を守るという消極的理由であっても、多くの人が株式や不動産に投資せざるをえなくなるだろう。

産業面では人工知能がもたらす影響が極めて大きなものとなる可能性が高く、投資先の選別においても重要なカギを握るはずだ。