Jトラストグループは、国内外で金融サービス事業、投資事業を展開し、成長を続けている。現在、海外事業の主な市場は韓国と東南アジアだ。グループを率いる藤澤信義社長は、投資対象の目利き役として、自らシンガポールに常駐する。その藤澤社長に、海外事業の実績、戦略、展望などを聞いた。
──2011年に韓国で行った消費者ローン会社のM&Aから、Jトラストの海外進出が始まりました。
【藤澤】はい。海外進出は、国内市場よりも大きな成長の伸びしろを求めての戦略です。ただ韓国の消費者ローン会社は、すでに売却しました。現在、当社の韓国事業の主力は個人顧客が中心の貯蓄銀行です。ちょうど当社が進出する少し前から現地で貯蓄銀行の破たんが相次ぎ、その一つの資産を承継するタイミングで2012年に銀行を立ち上げました。それがJT親愛貯蓄銀行です。また2015年にはスタンダードチャータード銀行の韓国子会社をM&Aし、JT貯蓄銀行とJTキャピタルに生まれ変わっています。
──韓国でも、日本での事業ノウハウが生かされていることと思います。
【藤澤】当社は日本でさまざまなローン事業を経験し、与信審査にノウハウの蓄積があるうえ、破たんした金融企業を再生させ、地域に根を下ろしたサービスで収益体質をつくるのも得意とするところです。韓国の景気悪化を懸念する声はあっても、貸し倒れは与信基準と途上与信でコントロールできると考えています。韓国事業の一つのマイルストーンは営業利益100億円。あと2年程度での達成が目標です。
タイの日系企業と組みインドネシアで新事業
──2013年には東南アジアでの事業も開始しました。
【藤澤】シンガポールにJトラストアジア(JTA)を設立し、私自身が現地での情報収集と迅速な意思決定にあたっています。最初は東南アジアでのノンバンク事業を狙っていましたが、2014年にインドネシア預金保険機構から公開入札への参加要請を受け、破たんした銀行を当社が落札しました。それが現在のJトラストインドネシア銀行で、順調に活動しています。
──今年は、JTAが新たな投資案件を手がけ、Jトラストインドネシア銀行も参画することになりました。
【藤澤】はい。タイ上場の日系企業、グループリース社(GL社)の戦略的パートナーとしてJTAが共同出資し、PT Group Lease Finance Indonesia(GLFI)を設立しました。GLFIはリース、割賦販売、消費者ローンなどの認可を受け、まず農機具の割賦販売をスタート。今後、太陽光発電パネルや白物家電なども取り扱う予定です。Jトラストインドネシア銀行は、その資金を融資する形で加わっています。
GLFIのサービスを現地の皆さんが利用してくだされば、農家は日本製のトラクターなどを導入して生産性を高められ、電気が通っていないエリアの方々は太陽光発電で家電製品を使えるようになるわけです。
──GL社とのパートナーシップ締結を決断した理由は?
【藤澤】GL社は、タイ王国を中心に主にオートバイの販売金融事業を行ってきた会社です。近年、カンボジアやラオスにも進出し、携帯電話と簡易な営業拠点を使った独自のデジタルファイナンスにより事業を拡げています。その与信審査のあり方や、根本的な考え方に、私自身共感することができました。それにGL社のCEOである此下益司氏は「アリババの創業者、ジャック・マー氏(中国)には負けない」と意欲にあふれた人物で、これまでの東南アジアでの実績を見ても、共に事業を大きくできると思ったのです。
GLFI設立に先立って2015年5月には私が即断し、GL社の転換社債3000万米ドルをJTAで引き受け、同年末に株式転換しました。現在の株価が引き受け価格の数倍に上ることから、相当な額になっています。さらに、今年5月にも同じく1億3000万米ドルを引き受け、潜在株式を含めると、GL社株式の約13%になります。
経済の根幹を成す銀行業
消費者に対し垣根を低く
──海外事業を成功させるために重視していることを聞かせてください。
【藤澤】日本でのノウハウは最大限に活用する。ただし、すべての日本基準が海外で通用するわけではない。それを忘れないことが大切です。韓国では首尾よくいきましたが、Jトラストインドネシア銀行は当初、破たんした銀行だったため、現地のスタッフに日本のノウハウを徹底させられない事態も発生しました。そのためマインドセットを変えて事業再生にあたりました。その後軌道修正はできており、買収から4~5年目には数十億円規模の営業利益を上げたいと考えています。銀行の成長ペースとしては驚異的でしょう。
一方、銀行業におけるコンプライアンスや企業倫理については本来、独自の基準ではなく世界基準に則るべきです。その乱れが韓国でもインドネシアでも破たんの原因でしたので、そこは徹底的に是正を図りました。
──海外市場がもつ可能性と、今後のビジョンを聞かせてください。
【藤澤】東南アジアには、まだまだ成長力があります。なかでもインドネシアは人口規模や国民の平均年齢の若さからも有望な成長国です。同国を筆頭に、ASEANでの事業運営のコツはつかんできており、今後も多様な金融事業の投入が考えられます。
また銀行業は、経済の根幹を成す事業です。既成概念にとらわれず消費者に対して垣根を低くし、GLFIの割賦のように他の銀行ではおよそ例のないサービスも提供していく考えです。
地域経済の発展なくして当社の事業は成り立たず、同時に私たちも収益を確保しなければ社会貢献ができません。各国が経済成長していくステージに合わせ、次々に新事業を積極展開したいと思います。