ネイティブが使う日常的な表現を覚えても、満足な英会話はできない。ビジネスパーソンが身につけたい本物の会話力を鍛えるには、実は文法の知識が必要だ。しかし、ここで学ぶ文法は、大学受験時に取り組んだ文法とは違い、むしろ、あの弊害を取り除く文法学習。そのポイントはただひとつ、英語の語順に精通することなのだ。

仕事で話せる英語を身につけるための第2弾。『しごとの基礎英語』でもおなじみの大西泰斗先生に文法の学び方について伺った。

東洋学園大学教授
大西泰斗 おおにし ひろと
筑波大学大学院文芸言語研究科博士課程修了。オックスフォード大学言語研究所客員研究員などを経て、現在は東洋学園大学教授。NHK教育テレビ『しごとの基礎英語』の講師。『ネイティブスピーカーシリーズ』(研究社)、『ハートで感じる英文法』(NHK出版)、『一億人の英文法』(東進ブックス)など、著書多数。

「哲学の原書を英語で読めるのに英語で満足に挨拶もできない。旧来の英語教育を受けてきた世代にこうした人が多いのは、中学・高校で英語の語順を学ばなかったからです。日本人はシャイで完璧主義だから話せないと言う人もいますが、そうではない。最大の弱点は、習ったことのない語順にあるのです」

語順を学ぶとはどういうことなのだろうか。大西先生が一例をあげる。

「My boyfriend gave me some roses.この文を見てみましょう。日本語の場合、誰『が』誰『に』何『を』与える、と読み解くにあたって、『が、に、を』のような助詞があるために主語や目的語の順番が変わっても意味がわかります。けれども英語にはこのような助詞がない。英語ではgaveという動詞の前の語が主語というように語順で判断するのです」

また、日本語と英語の語順は、鏡に映る像のような関係にある。例えば「六本木のバーで彼に会ったよ」を英語にするとWe met him at a bar in Roppongi.となる。つまり、日本語の最初の「六本木」が英語では最後の語になり、日本語の最後の「会ったよ」が、英語では主語の直後に来る。

「このように日本語と英語の語順は逆と言っていいほど違いますが、そこに適応していく必要があります。形式主語の文ではto不定詞以下が主語の位置にあるように訳し、関係詞節ではその意味が先行詞にかかるように訳し、I think thatの文ではthat以下の目的節の意味を先につかんでから、「~と思う、」と訳す。さらに否定文では、動詞の前にnotを挿入して理解する。このように、後ろから前へ意味をたどるやり方は、読解を中心とした入学試験をクリアするには必要なことですが、英語を話す力の足しにはならないのです」