嶋田流・社会的起業のあり方

しかし、結果としてはこの選択が奏功する。ブランドの本質を理解する相手からコラボレーションのオファーが寄せられ、こちらの売り上げが増えたからだ。結果、日本を販路とする売り上げが減ることはなかった。

コラボレーションを申し込んできた相手は、人気アパレルブランドのアーバンリサーチ。彼らのデザインをプラネッタ・オーガニカが実現し、できあがった製品をアーバンリサーチが丸ビルや表参道などで運営する直営店「かぐれ」で販売するコラボレーションは、好評を獲得。4シーズン継続した。また横浜では、天然繊維ヘンプ素材のウエアやバッグ、雑貨などを扱うセレクトショップ・オロミナとのコラボレーションで、ヘンプウエアも実現している。

プラネッタ・オーガニカ代表 嶋田美由紀さん。美大出身のセンスを生かした製品づくりと根気強さで、タイのフェアトレードに新風を吹き込んだ。

「デザインは相手先に任せて、私は材料を選び、布に織り、製品に仕上げる工程に専念できる。得意分野ですからストレスがない(笑)。これが自分の適正なビジネスの領域だと思います」

事業規模の拡大からは距離を置くが、材料や製法への強い関心とこだわりは健在だ。隣国・ミャンマーでは、日本のNPOと組んで、北部のミャン族が栽培するコットンを買い取るプロジェクトも進めている。

さらに、タイ王室が主宰するロイヤルプロジェクトの一環であるヘンププロジェクトで、製品作りにおける外国人指導員に指名され、4年ほど活躍した。嶋田さんはこれらの活動を通じて、タイの文化や伝統をデザインにうまく結びつけ、優れた製品を作る人材を育てたいとも語る。

「住む前はタイもタイ人も好きじゃなかったんですけどね(笑)。今は好きです。日本と異なる文化を受け入れられるようになりました」

なじめそうもなかったタイに住み着き、ソーシャルビジネスを展開している嶋田さん。自然体に見えて芯は強く、妥協は許さないビジネスは、高度な技術や製法に裏打ちされた優しい肌触りが特長のプラネッタ・オーガニカの製品によく似ている。

三田村蕗子
1960年、福岡県生まれ。津田塾大学学芸学部卒業。流通業界を中心にビジネス全般を幅広く取材する。『論より商い』『夢と欲望のコスメ戦争』、デリバリービジネスの最前線をルポした『お届けにあがりました!』など著書多数。

撮影=三田村蕗子