【白河】ずっとがんばってきたロールモデルはいても、中抜けして、また戻って活躍するというロールモデルがいないということですね。

【中野】だから継続を選んだ人も、迷走しながら働いているんです。この本でとりあげた「退職予備軍」は、今どうしているのかというと、まだ女性活躍推進の恩恵を受けてはいませんが、辞めてはいません。でも2人目3人目を産んでいる人が多いです。モヤモヤと仕事には迷いながら、とりあえず次を産んでおくという選択に向かっている印象です。

子育て中でも“いい仕事”はできる

【白河】「お金のために働く」ということに、こだわりを持っていた人は15人の中で2人ぐらいかなと思いました。自分の生徒を見ていても、親が離婚した、親が病気などで働き手が交代した、または親が経済的に離婚できないという愚痴をずっと聞いて育った人は、「働くことは当たり前だし、必要なことだ」と腹落ちしているのですが、そういう生徒は非常に少ないです。今の女性たちはキャリア教育を受けているので、「やりがい」を持って働くことを尊いと感じている。でも、輝かなくても、やりがいがなくても、働いていていいんだ。普通に働いて日々の糧を得ることの尊さを教えるキャリア教育はなかったんでしょうか?

【中野】確かにそれはなかった気がします。「13歳のハローワーク」前後から、仕事はお金のためというよりは自己実現のためという風潮ですよね。就活のマッチョカルチャーの中でも、「初任給や福利厚生で会社を選ぶのはカッコ悪い」という考え方があったと思うんですよね。少なくともそれを志望動機にしたら間違いなく内定は出ないわけで。自己分析やら何やらをして、「好きなことを仕事に」するのが美徳になっています。

実際、私も「働きやすさ」より「やりがい」を重視しました。私は卒論のテーマで「やりたいこと志向が高校生、大学生を苦しめる」という内容に取り組んでいました。あまりに「やりたいこと」を考えすぎると、結論が出なくてフリーターが増えたりする、というのは2000年前後から指摘されてきてる。でもそういう問題意識があった自分すらも、結局「やりがい」に絡めとられているところがある。