協和発酵キリングループから2011年に独立したKHネオケム。社名は知らなくとも、実はこの会社がかかわる製品を利用したことがない人はほとんどいないはずだ。自動車の塗料や住宅の床材、エアコンの潤滑油、化粧品、食品ラップなど、KHネオケムは私たちの生活を支えるさまざまな製品の原料や、その製造過程に欠かせない化学製品を生産している。昨年には、日本の石油化学メーカーとして過去最大級の投資規模となる台湾進出プロジェクトを発表。業界で大きな話題を呼んだ。そんな同社の“いま”を語る際に欠かせないキーワードが“変革”である。その背景には何があるのか──。14年9月から社長を務める浅井惠一氏に聞いた。
 

KHネオケム
前身の協和油化は1966年に設立。国内随一のオキソ技術を生かし、「基礎化学品事業」「機能性材料事業」「電子材料事業」の三つのコア事業分野で、それぞれ可塑剤原料や環境配慮型製品、高純度溶剤などを製造。独自の技術・開発力を有するスペシャリティ・ケミカルメーカーとして、さらなる海外展開を図る。

浅井惠 一(あさい・けいいち)
1954年生まれ。78年東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。ニューヨークやニューデリーなどでの勤務を経て、2001年からは石油事業本部のユニットマネージャーを歴任。09年から執行役員。14年9月からKHネオケム取締役社長(現職)。

昨年は、原油安・円安の影響もあり、おかげさまで過去最高益の業績を残すことができました。とはいえ、さらなる成長を考えたとき、外部環境に影響されない経営基盤の確立は必須です。

当社は、オゾン層を破壊せず、地球温暖化係数の低い「代替フロン」適合の冷房システム向け潤滑油原料である「イソノナン酸」を製造しています。この原料をはじめ、市場ニーズをとらえた高付加価値な製品を多数保有。また、他社には作れない製品を生み出す確かな技術力も持っています。こうした強みにさらに磨きをかけていくことが基本戦略となるでしょう。一方で、基礎化学品など汎用的な製品の生産に関しては、徹底したコスト削減に取り組み、経営の安定化を図っていきます。

技術力の土台となる研究開発の強化を目指し、先頃、「新規事業構築会議」を立ち上げました。これは、研究開発や経営企画、事業(営業)、生産技術といった各部門の若手・中堅社員が一堂に会し、新たなニーズの発掘に取り組むもの。主要部門に横串を刺すことで、部門ごとの縦割り意識を排除し、マーケットが本当に求めている製品、それでいて事業性の高い製品を多角的な視点から検討することが狙いです。

横の連携を図るのと同時に、意欲のある社員には自らの可能性を存分に追求してほしい──。そんな思いから「チャレンジポスト」という人事制度も導入しています。これは、新しい部署で何かを成し遂げたいという情熱のある社員の希望を汲み取り、立候補による部署異動を強力にサポートする仕組み。元の部署に速やかな人員補填などを約束することで、その社員が引き受けていた業務をスムーズに移行します。

私自身、かつて在籍した総合商社では業務内容が異なるさまざまな部署で仕事をしてきました。振り返れば、その中で多様な考え方、価値観に出合った経験が自らを大きく成長させたように思います。言うまでもなく、組織において人材育成は最重要事項の一つ。「チャレンジポスト」を活用し、一人一人が興味のある仕事に挑戦する過程で、幅広い人脈を得て、人間的な厚みも形成していってくれたらと願っています。