職場で、出張先で、英語が必要になったビジネスパーソンへ、NHK 教育テレビ『しごとの基礎英語』の人気講師、大西泰斗氏が、その学習方法を伝授する。

東洋学園大学教授
大西泰斗●おおにし・ひろと


筑波大学大学院文芸言語研究科博士課程修了。オックスフォード大学言語研究所客員研究員などを経て、現在は東洋学園大学教授。NHK教育テレビ『しごとの基礎英語』の講師。『ネイティブスピーカーシリーズ』(研究社)、『ハートで感じる英文法』(NHK出版)、『1億人の英文法』(東進ブックス)など、著書多数。

 

 

仕事で話せる英語を身につけるために何が重要か。NHK『しごとの基礎英語』でもおなじみの大西泰斗氏は、文法、発音、語彙のすべてが大切と指摘している。英会話というと、とかくリスニングや発音に意識が集中しがちだが、実は文法知識が不可欠なのだ。

「英語を話すための知識を100%とするなら、文法が担保するのはそのうち1割以下でしょう。文法だけで話せるわけではありません。しかし、外国人が用いる短い言い回しを覚えただけでも、語学力は身につかない。もちろん語学学習の要諦が、模倣にあることに疑う余地はありません。ネイティブの生きた文を徹底的に自分のものにする、それが会話力アップの最短距離です。ですが、ある程度長く実質的で繊細な言い回しを身につけるためには、それがどういった意識で紡がれているのかを理解しなければなりません。徹底的な理解、そこに文法知識は欠かせないのです」

話せる英語に不可欠な文法、発音、語彙

 文法という基礎の上に、何を積み上げて、話せる力にまで引き上げるか。ここで大事になるのが、まず、発音だという。

「世界にはさまざまな英語を話す人がいますから、日本人なまりを意識しすぎるあまり、発音に恐怖を感じる必要はありません。ただし、間違った発音を放置しておくのもまずい。とくに、ビジネスの現場で相手が問題なく理解できる発音が求められるのは当然です」

では、ネイティブと同じではないまでも、相手に理解される発音をいかに身につけるか。大西氏によれば、実はそれほど難しいことではないという。

「まずは日本語のクセに注意すること。例えば日本語の場合、子音は常に母音とコンビネーションで使われますが、英語では子音が連鎖することが頻繁にあります。structureを『ストラクチャー』と存在しない母音を補ってしまっては通じません。次に決して辞書通りではない英語発音のクセを取り入れること。lookの最後の子音はしっかり発音されませんし、an appleは『アナプル』とつながります。また冠詞や助動詞など機能語は(弱化した母音を積極的に使い)弱くすばやく読まれ、それが英語独特の強弱リズムをつくります。ポイントを押さえた発音練習さえすれば、すぐに英語らしく発音できるようになりますよ」

そして、もっとも重要になるのが語彙力。ひとつの単語を耳にしたとき、すぐに日本語の訳語が浮かぶようでは、英語は話せない。その理由を大西氏は次のように説明する。

「会話でいちいち日本語から英語、英語から日本語へと翻訳をする時間はありません。また日本語訳だけの知識で英単語を正しく使うこともできません。appre ciateを『感謝する』と覚えてもThank you. からの類推で、appreciate you などと言ってしまいそうですが、この単語は『評価する』から『感謝する』につながっています。当然目的語には相手がやってくれたこと(itなど)がくるのです」

では、日本語訳を越えて正しく使うためにはどうすればいいのか。

「ここでも大切なことは模倣です。ニュアンスを考えながら、単語を、前後を含めた塊として覚え込むしか方法はない。ここにマジカルな方法はないのです。文法的知識で正しく理解し、徹底的にネイティブの表現を塊で覚え、聞きやすい形でアウトプットできるようにする。これまでお話した内容をキチンと踏襲すれば、英語は瞬時に口をついてでてきます。たいへんな作業ですが、楽しい作業でもあります。覚えていけば、少しずつ着実に上達するのですから」

実践が容易でないのは百も承知だが、ここはやるしかない。さっそく今日から始めよう。

(大竹 聡=取材、文 鶴田孝介=撮影)