「健康経営」がもたらす価値については徐々に浸透し、すでに、さまざまな成果を収めている企業も増えている。検証によって新たに明らかになってきた導入効果や、これから環境整備を進めるにあたって重要となる視点を、東京大学政策ビジョン研究センター・尾形裕也教授に聞いた。

尾形裕也 ●おがた・ひろや
東京大学政策ビジョン研究センター
健康経営研究ユニット特任教授
九州大学名誉教授


東京大学工学部・経済学部卒。1978年、厚生省入省。同省にて、在ジュネーヴ国際機関日本政府代表部一等書記官などを務め、2001年、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授に就任。医療政策や医療経営を中心とした講演や執筆活動に注力している。2013年より現職。

 

将来の業績を予測する
一つの指標になり得る

「一昨年、米国で非常に興味深い論文が発表されました。日本においても今年から国による“健康経営銘柄”の選出が始まりましたが、米国ではかなり以前から、健康経営に熱心な企業を表彰する“優良健康経営表彰”という取り組みが推進されています。この表彰された企業と、同国の証券取引所に上場された代表的な500銘柄(S&P500)の平均値。それぞれに1万ドルを投資したと仮定して、その後の業績にどのような違いが生まれるのかを計算し、比較したのです」

そう語るのは、東京大学政策ビジョン研究センターの尾形裕也教授だ。結果は、まさに一目瞭然であった。両者に1万ドルを投資してから13年が経過したとき、優良健康経営表彰企業の投資成果はおよそ1.8倍に拡大。一方のS&P500平均は、1万ドルを割り込んだ(図1)。

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米国の優良健康経営表彰企業とS&P500平均それぞれに1万ドルを投資したと仮定。その後の業績を比較すると、前者の投資成果は1.78倍、後者は0.99倍に。健康経営に注力している企業は「長期的に良い業績を維持する」という結果となった。

「健康経営に力を入れている企業かどうかということが、長期的な業績を予測する上で一つの指標になり得る。このデータは、それを示しているといえるでしょう」

世界的にも注目度が高まっている健康経営の導入効果。こうした動きをいち早くとらえ、日本でもユニークな制度が続々と誕生し、運用されている。一例をあげると、2012年に日本政策投資銀行がスタートした「DBJ健康経営(ヘルスマネジメント)格付」。これは、「従業員の健康配慮への取り組みに優れた企業を評価・選定し、その評価に応じて融資条件を設定する」もので、健康経営格付の専門手法を導入した融資メニューとしては、世界で初めての試みである。

「現状ではまだ、健康経営という言葉を聞いても、なかなか具体的なイメージが浮かばないという方も多いでしょう。では、英語に置き換えると、もう少し分かりやすく感じるのではないでしょうか。Health and Productivity Management──。つまり、従業員の健康への投資を適切に行うことで高い生産性を維持し、収益の最大化を図る。そんなマネジメントを目指すのが、健康経営なのです」