脳が他の臓器と大きく異なるのは、各々が得た経験・刺激によって個性を持ち、生涯成長し、変化し続けられることである。
脳はどんな年齢になっても伸びる
「近頃、記憶力が落ちた」「苦手な英語をどう勉強したらいいのか?」と悩む中高年のビジネスパーソンは、学校を卒業した後は、意識的に何かを暗記するということもなく年月を過ごしてきた人が大部分でしょう。
でも、脳の仕組みを正しく理解すれば、相当の年齢を重ねた後でも、より効率よくその悩みを解消・軽減する鍵を手に入れることができる、というのが私の持論です。
脳が肝臓や腎臓などと異なるのは、未完の臓器であり生涯成長し続けるという点です。多くの人は、脳は幼少時の心身の成長期に全体が一気に成長して完成し、誰でも同じような脳を持つに到るというイメージを持っています。
ところが、決してそうではないのです。脳は使うことによって成長します。経験、刺激が加わることによって、脳の中身・質が変わるのです。ですから、脳をどんなふうに使ってきたか、脳に対してどんな経験、刺激を与えてきたかによって、人それぞれ臓器としての脳の中身・質は大きく異なっています。脳は、いわば個性のある臓器なのです。
それゆえ、使わなかった脳細胞は死ぬ間際まで未熟なまま脳の中にあり続け、その人にとっての苦手な分野として未開の状態にあります。
しかし、その未熟な脳細胞に効果的にアプローチすれば、脳はどんな年齢になっても伸びます。新たな刺激によって脳は変わりうるのです。
私は脳の働きの区分けを「脳番地」という概念で説明しています。脳番地とは、私がこれまで胎児から100歳超の高齢者まで1万人以上の人々の脳の画像を、MRI(磁気共鳴画像)を用いて観察・分析してきた結果得た「脳の地図」です。
脳に存在する1000億個を超える神経細胞のうち、似た働きをする細胞は1つにまとまり集団や基地を形成しています。思考に関わる細胞集団、記憶に関する細胞集団、運動に関する細胞集団……等々。大別すると、思考系・感情系・伝達系・理解系・運動系・聴覚系・視覚系・記憶系の8つに分けることができます。これらを脳番地と名付けたわけです。
それぞれの脳番地は、何歳になっても細胞が残っている限り、使われて経験・刺激を受けることで成長します。成長とは細胞の数が増えるわけではなく、脳番地を形成する神経細胞と神経繊維が拡大あるいは太くなる、つまりその脳番地の枝ぶりが立派になっていくことなのです。記憶力の衰えを防ぐ、あるいはアップするには、この記憶系の脳番地を意識して行動するといいでしょう。