最近、スーパーの店頭にカゴメの生鮮トマトが並ぶようになった。ジュースやケチャップといった加工食品とは勝手が違う。それでも自社栽培に乗り出した「トマト野郎」の目論見とは――。

収穫量は日本の2倍超「オランダ式」の技術

執行役員 農事業企画部長 藤井啓吾氏

カゴメが生鮮事業への進出を決めたのは、今から18年前の1996年の夏のことだった。

収穫されたトマトが、那須の工場で搾られている最中のこと。この年、大手スーパーの幹部が揃って工場の見学に訪れた。カゴメの加工用トマトは独自に開発した「凛々子」と呼ばれる品種で、ジュース用の鮮烈な赤さに特徴がある。幹部たちはその「赤さ」に魅せられ、「この真っ赤なトマトを加工用だけではなく、生食用としても売れないか」と提案してきた。

当時のスーパーの店頭に並んでいるのは、トマトと言えばピンク系の「桃太郎」がほとんどだった。トマトの消費拡大を考えたとき、品種が1つだけでは限界がある。トマトの奥深さを知ってもらうには、カゴメ自身がトマトをつくる必要があるのではないか。

翌年、経営幹部の指示で、生鮮事業のための全社的なプロジェクトが発足する。社長、会長を含む経営陣が、約2週間をかけて欧州を視察した。藤井啓吾執行役員は長年、外部のコンサルタントとしてカゴメの経営戦略を手伝っており、この視察にも同行した。

「あのとき再確認したのは、ヨーロッパにおけるトマトの種類の豊富さでした」と彼は振り返る。

「毎朝、市場の野菜売り場に行くと、色も形も異なる30種類以上のトマトが並んでいる。これはサラダ用、これは調理用とニーズに応じた種類が揃っているわけです。この光景を日本でも何とか実現したいと思いましたよね」

さらに翌年の1998年、那須の研究所に10アールの栽培テスト温室を設置。研究所には50年以上の歴史の中で集められてきた7500種類の種子(遺伝資源)があり、後に「高リコピントマト」や「オレンジまこちゃん」といった主力商品となる品種の開発が進められた。