いまや「シェールガス」というキーワード抜きに、エネルギーの未来を描くことはできない。米国発の技術革新によって、エネルギー勢力図が書き換えられようとしている。米国ではシェールガスの生産量急増に伴って天然ガス価格が下落し、低迷していた製造業は息を吹き返そうとしている。日本でもこの革命の恩恵を受けるべく、総合商社や造船、プラント建設などさまざまな業界が動き出している。
世界を変える可能性を持つシェールガス。その「今」と「これから」を確認しておこう。
そもそも「シェールガス」とは何かをおさらいしよう。シェールガスとは、固くはがれやすい頁岩(シェール)層の割れ目に閉じ込められたガスのこと。同じ採掘方法で石油も製造することができ、こちらはシェールオイルと呼ばれる。ともに新たに見つかった資源というわけではなく、昔から地下2000メートル程度の地中深くに埋蔵されていることは確認されていた。しかし従来型の天然ガスに比べると採掘の難易度が高く、商業化には開発コストが見合わないため、長らく“眠れる資源”とされてきた。
しかし2000年代後半の米国で採掘をめぐる技術革新が起きたことで、状況は一変した。シェール層を水平に掘り進める水平掘削法や、水の力でシェール層を破壊してガスを取り出す水圧破砕法が生み出され、商業ベースでの生産が可能になったのである。実は、この一連の改革を成し遂げたのは世界的なオイルメジャーではなく、地元の中堅企業。オイルメジャー各社は先行する中堅企業をパートナーにしながら、シェールガスビジネスに相次いで参入を果たし、開発を加速化した。エクソンモービルや英BPは米国内のシェールガス開発関連事業に資金を振り向けて、停滞するガス事業の拡大に成功。採掘が本格化した結果、石油の可採年数54年、在来型の天然ガスの可採年数が60年と推定されているのに対して、シェールガスなど非在来型ガスの可採年数は100年以上と推測されるまでになった。
IEA(国際エネルギー機関)は、シェールガス革命の影響で、米国は2020年ごろまでに石油の“輸入国”から“輸出国”となると見込んでいる。そうなれば、米国の中東地域への関与が後退するといった地政学的な変化も生じてくるだろう。事実、米国は今年5月には日本へシェールガス輸出に関する認可を出すなど、エネルギー資源の輸出に慎重な姿勢を見直し、積極的なエネルギー政策に舵を切りつつある。
また、ロシアなど既存のガス大国では、米国から安価な石炭や天然ガスが世界に流出した結果、ガス価格の下押し圧力が高まり、新たな天然ガスの受け入れ先を探す動きが広がっている。買い手のバーゲニングパワー(交渉力)が高まっているいまは、日本の天然ガス輸入交渉を有利に運ぶ好機かもしれない。