どれだけ寝ても、すっきりしない。こんな悩みを抱えている人は、「眠りのリズム」を見失っているのかもしれない。リーダーの眠りを紹介する本シリーズ。2回目はマイクロソフト日本法人の社長も務めた成毛眞さんに聞いた。

経営の第一線で活躍した後、ノンフィクションの書評サイト「HONZ」を開設。自身もレビュアーとして毎日膨大な量の読書、また原稿執筆に取り組む成毛さん。「毎日、平均で計8時間は寝ています。寝不足だとてきめんに調子が悪くなりますね」と言うとおり、しっかりと睡眠を取ることで、日々の英気を養っている。精力的な活動を支える眠りの秘訣はどこにあるのだろうか。成毛さんは「眠りの問題を改善したいなら、まずは最低限そのメカニズムを理解しておくべき」と助言する。

「例えば、レム睡眠の間に起きた方が活動しやすいというのはよく聞く話でしょう。人は、眠りが浅く脳が活発に動いているレム睡眠と、眠りが深くなるノンレム睡眠を繰り返すと一般にいわれます。そのため、ノンレム睡眠で脳が熟睡状態なのに無理矢理目覚めても、調子が上がらない。一方、レム睡眠の間はすっきりと目覚めやすいのです」

成毛さん自身、夢中になって本を読み込んだり、渾身のレビューを執筆するとき、特に睡眠が重要になると実感している。「眠りは、情報を脳に定着させる時間」と考えるからだ。

成毛 眞●なるけ・まこと
HONZ代表
株式会社インスパイア 取締役 ファウンダー
マイクロソフト日本法人の元社長。現在、スルガ銀行の社外取締役、早稲田大学ビジネススクール客員教授などを務める。産経新聞、週刊朝日、プレジデント、クーリエ・ジャポンはじめ、寄稿多数。著書に『本は10冊同時に読め! 本を読まない人はサルである!』など。

「人間の記憶は、いったん短期記憶を司る脳の海馬という器官に集められ、眠っている間に長期記憶を管理する大脳に移行すると考えられています。これをパソコンにたとえると、海馬は情報を一時的に保存するメモリ。大脳は電源を切っても情報が保管されるハードディスクということ。そして睡眠は、メモリからハードディスクへと情報を書き込む時間にあたるわけです」

とすれば、ハードディスクへの書き込み速度が速く、動作は安定していた方が良い。だから、脳の働きを支える睡眠の質が重要になるのである。「ゴルフやスケートなど、バランス感覚が大事な運動をすると、眠った後に動きの記憶が身体に定着しているのが分かりますよ。一流のアスリートに寝具にこだわる人が多いのは、睡眠によってトレーニングが定着する効果を熟知しているからかもしれませんね」

言うまでもなく、情報や知識を定着させる眠りの機能は、ビジネスパーソンにとっても不可欠なものだ。自身も経営者としてさまざまな人物とビジネスを手がけてきた成毛さんは「仕事で重要なのは、積み重ねた知識の絶対量にほかならない」と強調する。

「それも特定のジャンルに偏った知識ではなく、経済や歴史、科学、スポーツ、サブカルチャーなど、あらゆる領域に広がっているほどアイデアの幅が広がります。『自分にはひらめきがない』と嘆くなら、まずは多様な情報を手に入れるように努力すべき。それには、本を読むことが手っ取り早いでしょう。読書に親しみ、そこで得たものを咀嚼して自分の血肉とするために睡眠が重要となるのです」