パワハラの録音は一切残っていなかった
⑤総額:2048万円
以上で総額2048万円。これが「パワハラで2000万円支払命令」の判決の金額の中身である。労働者1人を軽く見て不当な取扱いをすればいかに高くつくか、今回の会社はよく学んだであろう。
しかも③の給料は、会社が支払わない限り今後もずっと増え続ける。また、この2000万円以上の金額の全部に年5〜6%の遅延損害金(利息のようなもの)も付く。この判決によって、抵抗すればするほど不利益を受けるのは会社側となった。Aさんの長い裁判闘争の結果、その努力と執念が実り、裁判所が最後に「正義」を示すに至ったのである。
マスコミからよく質問されるのが、Aさんが勝訴した要因である。Aさんは働いていた当時、上司Sから人格を否定されるような叱責を受けても、「仕事ができない自分自身が悪い」と思い込み、涙を流して謝っていた。それが「パワハラだったのでは」と気づいたのは、休職した後である。そのため、パワハラの録音は一切残っていなかったし、当時の日記やメモもなかった。ではどうしたか。
一見無関係な資料から記憶を紡ぎ出した
1点目は、Aさん自身の記憶の復元である。Aさんは地道に、自分が仕事中に受けた被害の詳細を一つひとつ思い出していった。その際に役立ったのが、業務日報、妻とのメール、デザインのためにスマホで撮った写真など、一見パワハラとは関係のない資料。業務日報については、労災申請をすると、労基署が会社から取り寄せてAさんに提示してくれた。その他は、Aさんのスマホに残っていた。
Aさんは、そうした客観的な資料を一つひとつ眺めることで、当時あった出来事を具体的に思い出し、時系列に並べることができた。辛い作業だったと思うが、Aさんは、パワハラ裁判を提訴する頃には、79項目ものパワハラに関する出来事を非常に詳しい状況とともに書面にまとめあげていた。

